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OCDコラム

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診療につながらない患者さんの状況と家族の対応

OCDの重症度が増すにつれ、苦痛や疲れも増してきて、通学・就労をはじめとする日常生活に支障をきたすことがあります。しかし、このような状況においても精神科の医療機関へ通院していない人は少なくありません。本人も苦しく家族の悩みも深まるものの、なかなか解決の道筋が見えずに深刻な状態に陥ることがあります。今回のコラムでは、そのような患者さんの状況と心理について、そして、そのような状況下における家族の対処法をお伝えします。


目次
§1 データに見るOCDの患者さんの受診状況
§2 インターネットの注意点
§3 症状の改善をあきらめるには早い
§4 家族のコミュニケーションを取り戻す


§1 データに見るOCDの患者さんの受診状況

OCD研究会で多賀千明先生らが2001年に行った調査によると、OCDの患者さん(45名)が、発症してから最初に精神科もしくは心療内科の専門医を受診するまでの期間は、平均3.7年でした。[1]OCDの患者さんでは、発症以前から、強迫的な癖や考え方をもっていたという人が少なくなく、発症年齢の判断は難しいのですが、この調査では、発症年齢を、強迫症状が診断基準(DSM-IV)を満たした段階(精神的な苦痛や生活への支障をある程度抱える)としています。この調査は14年前のものですが、症状に気づいてから最初の受診に踏み切るまで、年月がかかっていることがわかります。

OCDお話会の行った調査(図1)によると、2006年7月から2014年10月に同会に参加した当事者327名(OCDと診断されているとは限らない)のうち、精神科、心療内科などにOCDの治療のために受診した経験がある人は94%でした。本人が不参加で家族のみが参加した131ケース*)でも82%の人が、一度は受診をしていました。[2]未受診の人は、このような会に参加することに抵抗があるのかもしれませんが、家族のみが参加したケースでも82%の人で受診歴が確認できましたので、受診経験がないというよりも、受診経験があっても、その後、診療で行き詰っている人が多いのではないかと推測されます。
*)複数名で参加した家族も1ケースとしてカウント

また、OCDお話会が行った2012年11月から2014年7月の別の調査では、一人の患者さんが、複数の医療・心理の施設数は受診したということがわかります(図2)。このように、OCDの治療は、最初に受診した医療機関で必ずしも治療の効果を実感できるとは限りません。過去に、うまく行かなかった治療経験があると、次になかなか踏み出せなくなるのも無理はありません。その点を、家族も理解してほしいのです。



§2 インターネットの注意点

患者さんや家族が、病気・医療ついての情報を得る際に、大きな役割を果たしているのがインターネットです。インターネットで検索して「強迫性障害」「OCD」という病名を知ったという人も少なくないのではないでしょうか。

OCDの患者さんは、不安や恐怖にかられて、強迫行為をするだけでなく、新しいことへ踏み出すことを避けたり、先延ばしにしたりする傾向があります。そのせいか、インターネットで情報を調べる際も、否定的な情報に影響されやすくなることがあります(図3)。


①不安によって偏見を抱いてしまう
OCDの人では、わずかでも不安を感じさせる言葉に出合うと、さまざまな疑いがわいてきて、「本当に大丈夫だろうか」と調べ始め、調べることが強迫行為のようになってしまうことがあります。たとえば、薬物療法時の副作用が気になって調べたとします。インターネットの情報は玉石混淆なため、ときには非常に稀な副作用や根拠のない医療情報に出合ってしまうこともあります。「副作用」という言葉にもともと恐怖を感じていた人では、その思いが強くなり、「副作用の可能性がある薬物療法は怖い」という先入観をもつようになります。

しかし、前述のOCDお話会の調査[2]でも、参加者(家族は除く)の83%が薬物療法を経験しています。薬物療法を受ける際は、過剰に恐れるのではなく副作用が起きたときの対応などを医師から教えてもらい、安全に服薬していただきたいと思います。万が一、副作用が現れた場合は、速やかに医師に相談するようにします。

②ネットにはOCDが改善した人の情報が、案外少ない
OCDは、適切な治療を行えば、日常生活に支障がなくなるほどの改善が得られます。症状が改善した人では、仕事、学業、趣味、恋愛など、今までOCDの症状のためにできなかったことで忙しくなり、OCDへの関心が薄れることがあります。また、OCD体験は過去のこととして公表したくないと考える人もいます。そのため、インターネット上で、OCDが改善した体験を書いている人が少ないのではないかと思われます。当サイトのコラムでは過去に何度か、OCDの症状が改善した人に集まっていただき、座談会を行いました。そこでは、症状が改善していくまでの体験を語ってもらっています。

③ネットでOCDにくわしい専門家を探すことは難しい
過去に受診した医療機関で症状の改善がみられなかった場合、OCDによりくわしい医師や心理士を探すことになると思いますが、そのような情報をネットで見つけるのは、実は難しいのではないかと思われます。OCDに関する本や論文を書いている著名な医師のもとには、すでに多くの患者さんが通院しているため、医療機関のホームページで詳細を紹介していないことがあります。OCDへの認知行動療法は、一人の患者さんに費やす時間が長いため、対応できる人数が限られてしまうという理由もあります。

一般に、OCDの患者さんは、頭の中だけの想像と、現実とを区別することが大切です。そのため、インターネットよりも、患者会・自助グループに参加するなどして、できるだけ実際の体験談や情報に触れることをお勧めします。これは、家族の方も同様で、このような自助グループには家族が参加できるものもあります。

§3 症状の改善をあきらめるには早い

過去の治療で症状が改善しなかったものの、その後OCDにくわしい医師を受診したことで、改善したという人は少なくありません。以下に、新たな受診にいたらずに強迫症状を抱えたままでいるパターンを紹介します。しかし、治療に遅すぎるということはありません。決して症状の改善をあきらめないでください。

①独力で治そうとしている
最近では認知行動療法に関する書籍も多く出版されています。しかし、OCDへの認知行動療法は、本を読むだけで修得するのは難しく、医師や心理士も認知行動療法を学ぶときには、経験豊かな先生から教わるケースが多いそうです。したがって、患者さんが書籍だけを読んでも、認知行動療法を実際に自分の症状に当てはめて行うことは難しいといわざるを得ません。

②過去の薬物療法の結果から、すべての薬物療法で効果がないと思い込む
OCDの薬物療法でよく用いられるSSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)というタイプの薬は、いくつか種類があり薬剤によって効果に違いがあります。1つの薬で効果が得られなかった場合でも、ほかのSSRIに切り替えることで、効果が得られることがあります。また、薬物療法によって、強迫行為への衝動がいくらか和らいでも、それまでの習慣が変わらなければ、効果は得られません。薬物療法は、心理教育や認知行動療法と併用することで、より効果が得られやすくなります。くわしくは、当サイトの「OCDの治療法 」や第122回コラム「強迫性障害(OCD)のお薬Q&A①SSRI服薬のポイント 」を参考にしてください。

③過去の診断で見過ごされた症状がある場合
OCDはほかの心の病気との区別が難しい場合があります。また、OCDのほかにもうつ病や発達障害などの併存疾患が見過ごされていることがあるかもしれません。たとえば、発達障害を抱えている人や頭の中の強迫行為が主症状である人、トラウマ*1)を抱えていて、その原因になった出来事を告白しにくい人などでは、診断が難しい場合があります。

§4 家族のコミュニケーションを取り戻す

OCDが重症になると、本人は毎日つらい思いをするようになりますが、家族も心配で心を痛めています。少しでもよくなってほしいと、受診を勧めても、本人がいやがることは珍しくありません。それは、OCDの患者さんが、先ほど紹介した図3でも説明したように、不安や恐怖が強いためです。



受診に対する恐れが強いと、建設的な話し合いは難しくなり、どちらの言い分が勝つかという力の対決になりがちです。そのような場合、家族だけでは話が平行線になるため、親戚や専門家という第三者にも関わってもらうことが望ましいのですが、それすら拒むことがあります。

そして、本人の考え方や態度があまりにも理不尽な場合、受診するかどうかよりも、家族が、家族の役割や自立について、基本的なことから考えていく必要があります。20~50代の成人のなかには、病気のために自立できないが受診もしたくないという人が少なからずおり、解決の糸口が見つからないケースがあります。親の悩みは深いものと思われますが、子どもであっても成人の考えを家族が変えるのには無理があります。それよりも、重度のOCDの患者さんでは、生活の大半を家族に頼っているので、お互いの自立のためにも、家族の方は患者さんに対して過剰にしてあげている部分を変える必要があります。その変化を円滑にするためには、コミュニケーションの糸口を探します。

アメリカで、医療機関への受診を拒否する依存症の患者さん向けに開発されたコミュニティ強化と家族訓練(CRAFT)というものがありますが、昨年、境泉洋先生らによって、日本のひきこもりの人向けに応用したマニュアル「CRAFT ひきこもりの家族支援ワークブック―若者がやる気になるために家族ができること」[3]が出版されました。CRAFTは、認知行動療法に基づき、問題となる行動を分析します。そして、コミュニケーションの方法を工夫することで、望ましい行動を増やす内容となっています。家族だけで実行するのは、難しい場合もあるかと思いますが、関心のある方は参考にしてみてください。認知行動療法といっても、OCDの治療で使われる曝露反応妨害とは別の技法を用いています。

受診にかかわる不安や患者さんと家族との間の問題については、当サイトのコラムでも、何回か取り上げていますので、合わせてご覧ください。
関連ページ:
OCDコラム第84回 初めてメンタルクリニックに行くとき不安に思う、あれこれ
OCDコラム第86回 家族が出来る支援・してはいけない手助け
OCDコラム第87回 OCDによるひきこもりと未受診


*注釈
*1トラウマ――心的外傷。死の危険に瀕する、重傷を負う、性的な暴力を受けるといった出来事を、直接体験、もしくは目撃、また、近親者など非常に身近な人がそのような出来事に遭遇したことによって、非常に強烈な衝撃を精神に受け、これまでの方法では回復が難しいほど心に傷を負ってしまうこと。職業によって、死、虐待など不快感をいだく出来事に繰り返しさらされる体験も含まれます。[4]第97回OCDコラム「トラウマとOCD(強迫性障害)」を参照。


*文献
[1]多賀千明・吉田卓史・福居顯二「OCDの発症から専門医受診までの経緯について」強迫性障害の研究3、p101-107
[2]有園正俊「強迫症の患者にとっての治療状況」精神科2015、第26巻 第3号、p219-223. :科学評論社
[3]境泉洋、野中俊介[著]「CRAFT ひきこもりの家族支援ワークブック―若者がやる気になるために家族ができること」金剛出版(2013年)
[4]American Psychiatric Association[著]、日本精神神経学会[日本語版用語監修] 、2014年、「DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル」医学書院