トップOCDコラム > 第134回
OCDコラム

OCDコラム

【私のOCD体験記】第13回 小春日和さん(仮名)
夫のOCDに妻も向き合う

小春日和さん(38歳)のご主人(43歳)は、長くOCDに苦しみました。最初に通った医療機関でOCDと診断され治療が始まったものの、その後、医師が代わり統合失調症を疑われたため、服用する薬が増え、強迫症状が急激に悪化した時期があったそうです。しかし、その後、転院し、薬物治療も変わり、行動療法も行ったことで、症状が改善されました。その間、妻である小春日和さんは、どのような気持ちで、夫のOCDと向き合い、対応していったのか、お話を伺いました。

目次
§1 OCDを知り受診に至るまで
§2 統合失調症を疑われOCDがさらに悪化
§3 行動療法と巻き込みへの対応
§4 家族で楽しく過ごせる時間を大切に


§1 OCDを知り受診に至るまで

現在、小春日和さんは、夫と娘2人と義母の5人で暮らしています。
小春日和さんとご主人の出会いは彼女が高校生のときにアルバイトをしていた職場。5歳上のご主人は、丁寧に仕事を教えてくれる優しい先輩でした。小春日和さんは、どちらかというと大雑把な性格で、すぐに行動して失敗するタイプだそうですが、ご主人は逆に几帳面で、石橋をたたいて渡るタイプで、そこが魅力的に思えたそうです。ご主人にとっても、小春日和さんのおおらかなところは魅力だったそうです。

ただ、結婚前、一緒に歩いていると、「この道は汚いから通りたくない」ということがあり、後から思えばOCDと思えるところもあったそうです。また、彼女が友だちと海外旅行へ行く話をすると、「何で初めて行く海外旅行なのに俺とじゃないんだ」と、初めてのことは一緒に行動してほしいというこだわりもあったのですが、当時は、それだけ大事にされているようでうれしく感じていたそうです。


7年の交際を経て、16年前(1999年)に結婚し、2人の子どもにも恵まれました。しかし、会社内で人事異動があった頃から、夫の過剰な行動が目につくようになりました。ご主人にとって、「3」は縁起のよい数字で、一方、「666」「2」「4」「13」は縁起の悪い数字でした。縁起の悪い数字を見かけたら、強迫行為をしないと、自分の家族が死んでしまうかもしれない、一人ぼっちになってしまうかもしれないという恐怖が湧いてきたそうです。そのため、縁起のよい「3」にこだわり、電気のスイッチを消した後に、スイッチを3回さわって確認をしたり、食事のときにお箸で唇を3回触れてから食べ始めたりするようになりました。さらに、なにかうまくいかないことがあると3の倍数の「6」「9」「12」などにこだわり、行為を繰り返していました。

強迫行為が悪化してくると食事も、「もやしを3本、ご飯を12粒食べたからいい」というようになり、ぽっちゃりした体型が、がりがりにやせていきました。また、路面タイルの道では、苦手な色のタイルを踏まないように歩き、全部苦手な色だと飛び越えたりしていました。妻に確認してもらわないと進めないため、彼女がご主人の前を歩くと怒られたそうです。

次第に確認のための質問が頻繁になり、強迫行為への巻き込みも増えていきました。ご主人から風呂に入るところを見ていてくれと頼まれ、「1、2、3、よし!」と唱えてから入る夫を見て、「これは治療しないと本当にだめだ」と病気の深刻さを痛感したといいます。

OCDという病気を知らなかった小春日和さんですが、インターネットで調べて、OCDという病気を知りました。そして、病院へ連れて行かなくてはと思ったのですが、ご主人は「俺は病気ではない」といい張り、受診を拒否するため、双方の両親を交え、家族会議を行いました。その席で、小春日和さんの親が「病院に行かないなら離婚を考えてくれ」と話したことで、ようやくご主人は受診することになりました。

§2 統合失調症を疑われOCDがさらに悪化

病院ではOCDと診断され、薬物療法が始まりました。最初は、三環系抗うつ薬のSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)が処方されました。当初、小春日和さんたちは、通院し服薬していれば、風邪のように治ると思っていました。その後、薬はSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)に変わりましたが、改善の兆候が見られないまま10年が経ちました。その後、主治医が代わり、薬も別のSSRIになり、いくらか調子がよくなりましたが、ゴロゴロと寝ていることが多くなり、もともと食べることが好きだったこともあり太りだしました。

病院を受診する際は、毎回小春日和さんが付き添っていました。ご主人は自らの症状についてあまり話さないタイプで、2010年には医師から、「これは統合失調症(*1)陰性症状(*1)かもしれない」といわれ、ロールシャッハという心理検査を受けることになりました。その結果 「統合失調症の可能性がある」「幻覚や幻聴はまったくなくても、強迫行為観念が症状で出る人もいる」といわれ、副作用の少ないといわれていた抗精神病薬の新薬を処方されました。

そこから、ご主人の症状は坂を転げ落ちるように悪化していきました。ご主人は自分で服薬を中断してしまったため、次に別の抗精神病薬が処方されました。すると、そわそわ感が増して、いてもたってもいられないアカシジア(*2)という副作用に悩まされるようになりました。その副作用を防ぐために抗パーキンソン病薬も処方されましたが、そわそわ感はなくならないうえに、眠気が増して、精神症状も安定しなくなりました。さらに不安が高まったときのために新たな抗精神病薬が処方されるというように、薬の種類がどんどん増えていきました。

夫の症状が悪化するという小春日和さんの訴えに対して、主治医は統合失調症の陽性症状(*1)だと説明しました。夜も眠れなくなったご主人は、悪夢を見るようになり、寝ぼけて娘を踏んでしまったり、ベランダから飛び降りようとしたりしました。家族への巻き込みがひどくなり、離婚も視野に入れて今後を考えなくてはならなくなりましたが、小春日和さんのした決断は「離婚せずに治療に専念してもらうこと」でした。ご主人の治療がうまく行かずに、万が一働けなくなったとしても、自分が正社員として働いて生活費を稼ぎ、ご主人の実家で暮らすことで子どもたちの面倒を義母にみてもらおう、そういう生活が続くかもしれないと覚悟したうえで入院治療を受けさせることを決心しました。

ご主人は、症状が悪化してからも働いていましたが、徐々に仕事にも支障をきたすようになり、2011年の年末に休職することになり、いったん、実家に帰ることになりました。小春日和さんはご主人が自宅にいなくなったことで、インターネットでご主人の病気について調べるようになり、ある医師のセカンドオピニオンのサイト(現在はありません)を見つけました。そして、その医師にメールをしたところ、翌日(その日は入院予定日の前日でした)、医師から電話をもらいました。その医師は、ご主人の症状悪化は、おそらく抗精神病薬による症状ではないかといい、OCDにくわしい医師を紹介してくれました。

§3 行動療法と巻き込みへの対応

結局、入院はせずにOCDにくわしい医師がいるクリニックに受診することになりました。紹介されたクリニックは自宅から遠かったのですが、そこでは行動療法もしていることを知り、何が何でも通わせようと思いました。しかし、当時のご主人は1人で歩くことすら困難で、「そんな遠いところへ行くのは絶対無理」といいましたが、親戚の協力も得て、2012年2月にそのクリニックを受診しました。新しいクリニックの医師からは、ご主人は統合失調症ではなくOCDであり、「治りますよ」といわれ、小春日和さんたちはうれしいも驚きでいっぱいになりました。

その後、OCDの集団教育プログラムにも参加することになりました。クリニックが入っているビルの廊下は、ご主人の苦手なタイル模様だったため、一人では歩けずに家族に支えられていましたが、その姿を医師と心理士がたまたま目にしました。集団教育プログラムの後、心理士がご主人に「まっすぐに歩けないの、つらいね」「この後カウンセリングの空きがあるけれど、どうですか」と声をかけてくれました。カウンセリングを受けることになったご主人に、心理士は足元のタイルを見ないで、斜め上を見ながら歩くという行動療法をしました。いままでこのような治療をしたことがなかったので、小春日和さんに衝撃が走り、求めていた治療はこれだと思ったそうです。心理士は、その後のカウンセリングで何が怖いのか聞き出し、課題を作成して、それをご主人は取り組むようになりました。

ご主人が「大丈夫だよね。平気だよね」と問い、妻が「大丈夫。平気」と答える行為がセットになっているQ&A強迫だといわれました。ご主人が自分だけで不安を抱えることが必要なため、確認を求められたときは、すぐに答えずに、少し間をあけて「気になるんだね。心配なんだね。」とゆっくりというようにと教わりました。家族が強迫行為に巻き込まれて安心の保証を与えてしまうと悪循環になってしまうからです。その帰り、小春日和さんはタイルの道路で確認している夫に「気になるんだね」と語りかけました。ご主人は怒りましたが、いつもの強迫行為のリズムが崩れていったようです。小春日和さんはいままで自分も強迫行為のお手伝いしていたと気づいたといいます。

次に、心理士から「大丈夫?」と聞かれたら、「さあね」と答えるように教わり、そのように対応するようになると、夫の怒りが爆発するようになり、「大丈夫といってくれ!」と抵抗しました。しかし、そこで家族がご主人の望みどおりの対応をしてしまったら、本人のためにならないので、親戚にも協力してもらい強迫行為に巻き込まれないように頑張りました。ご主人は、そのように指導する医師や心理士を悪魔だといっていましたが、このクリニックでは、それまでの抗精神病薬から、別のSSRIに薬も変更し、それが効いていたようで、通院は続いていました。

新しいクリニックに通院して2か月後の4月に、集団集中の行動療法に参加しました。そのときに、ご主人は、同じ病気の人に初めて出会い、こんなに苦しんでいる人がいることを知りました。ほかのOCDの患者さんが、頑張ってエクスポージャー(曝露法)に取り組んでいる様子を見て、自分も頑張らなければいけないと思ったそうです。

主人に行われたエクスポージャーでは、まず、強迫症状のために捨てられずにカバンのなかに入れていたものを、全部床にまき散らし、それをぐちゃぐちゃにしたままカバンに戻し、次に、カバンのチャックを開けたままの状態で街を歩いて、買い物に行くというエクスポージャーを行いました。それまでは、カバンのチャックを閉めないではいられなかったそうです。この治療を終えたご主人は、小春日和さんに、ニコニコ顔で「心理士の先生はすごかったよ」といい、1人でまっすぐに歩けるようになっていたそうです。その変化に小春日和さんは驚き、泣きそうになりました。そして、ご主人はその日の夕食後、「俺は今まで甘かった」「俺よりもっと症状が重い人がいっぱいいるんだから」と話したそうです。それを聞いて、小春日和さんは、この治療を受けてよかったと思ったそうです。

§4 家族で楽しく過ごせる時間を大切に

小春日和さんは、集団集中治療を受けさえすればよくなると思っていたのですが、そこは行動療法の方法を学び、体験するだけで、それを自分たちで取り組み続けていくためのスタートであったことに、後になって気づかされました。そして、ご主人は自宅で少しずつエクスポージャーに挑戦するようになりました。そして、5月には復職しました。同時に小春日和さん家族はご主人の実家に引っ越し、義母と暮らすようになりました。

小春日和さんは強迫行為に巻き込まれないように「さあね」といい続けるようにしました。義母も、安心の保証を与えてはいけないことを少しずつ理解してくれました。しかし、そんな小春日和さんに対しご主人からは「お前は悪魔の女だ、1回くらい大丈夫っていってくれてもいいだろう」などと非難の言葉が続きました。ご主人に代わってやらなくてはいけないことを抱えていた小春日和さんは、抑えてきた感情を爆発させてしまったこともありました。そこで、小春日和さんは心理士に「主人の強迫行為に巻き込まれないように「さぁね」と言い続けていって、一生主人に嫌われた関係が続くのではないか」と泣きながら相談したところ、心理士は夫に「夫婦は触れあって仲よくして、毎日30分は会話をするように」と提案してくれたそうです。

後に当時を振り返ったご主人から、「あのとき、俺には『さあね』が必要だった。あなたががんばってくれてよかった」と小春日和さんへの感謝の言葉があったそうです。心理士のサポートを受けながら、「さあね」といい続けたことで、夫婦共々、不安に向き合う力が鍛えられたと小春日和さんも振り返ります。

また、その頃から、小春日和さんはOCDの会(*3)に参加するようになりました。そこで、ある参加者が「父が強迫性障害で、病院にも行ったが治らなくて、家族崩壊の危機だ」と泣いていた姿を見かけました。自分たちもこのままでは、子どもに同じ思いをさせてしまうのではないかと思われ、帰宅後、夫にその話をしたところ「そうだね」と同意してくれました。その頃から、ご主人は変わりだしたそうです。

小春日和さん自身も、夫の病気を見守っているつもりが、「またやっている」と見張ってしまっていたことに気づき、病気を見張るよりも家族で楽しい時間を過ごせることが何よりだと思うようになり、だんだん変わっていきました。

いまも、ご主人の強迫行為は残っていますが、日常生活に支障をきたさない程度になりました。集団集中療法を終えて間もない頃は、家族旅行は難しかったのですが、小春日和さんと子どもたちで出掛けたいちご狩りの楽しかった話を聞くことで、次は、一緒に出掛けようという気持ちになったようで、ご主人も家族と一緒に出かけられるようになりました。それ以後、家族で外出する機会を増やし、結婚記念日に買った一眼レフのカメラで、ご主人は家族の写真を撮るようになりました。去年できなかったことも今年はできるようになるようになるなど、歳を重ねながら、夫婦がお互いに成長していることを感じているそうです。小春日和さんは、「いまの幸せは、闘病中を支えてくれた医師や心理士、二人を見守ってくれた多くの人々のおかげ、これまでのつらかったことを帳消しにするほどの楽しい時間を家族で過ごしていきたい」と話しています。




*小春日和さんのブログ「強迫性障害の夫をもつ妻のつぶやき…」
http://plaza.rakuten.co.jp/pinkatama1213/



*注釈
*1 統合失調症 ――――
思考がまとまりにくく、強い不安や興奮のように感情が不安定になる。非現実的な考えを強固に信じる妄想や、幻覚、幻聴によって自己が脅かされる陽性症状と、感情が鈍麻し、活動の意欲が失われ、自分の世界に閉じこもる陰性症状とがある。
*2 アカシジア ――――
足がむずむずして、じっとしていられないため、動き回らないではいられなくなり、精神的にも落ち着かなくなる。抗精神病薬の副作用によって生じることがある。
*3 OCDの会 ―――――
OCDの自助グループで、北海道、東京、静岡、長野、名古屋、熊本などで活動を行っている。