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OCDコラム

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マインドフルネスとOCDの治療

新たな精神療法の技法として、近年、マインドフルネスというものが注目されています。
数十年前から欧米の研究者によって、古来の瞑想法の考えを精神療法に利用するようになりました。OCDの認知行動療法にも、マインドフルネスを取り入れた方法が提案されています。今回のコラムでは、マインドフルネスという精神療法とOCDとの関連について紹介します。


目次
§1 マインドフルネスとは
§2 人がとらわれるのは過去、将来のこと
§3 考え、感情、体の感覚を区別する
§4 OCDでのマインドフルネス
§5 体の感覚への気づき


§1 マインドフルネスとは

マインドフルネスという言葉は、元々は仏教の経典で用いられるパーリ語の「サティ」という言葉を英訳したもので、心にとどめておくこと、気づきなどの意味があり、瞑想の実践における重要な概念になっています。[1] 古来の瞑想法の考えを精神科臨床に応用し、1979年に、マサチューセッツ大学医療センターで、カバットジン博士がマインドフルネス・ストレス低減プログラムとして開発しました。[2]その後、うつ病の治療法として、科学的に効果が検証されています。

うつ病やOCDのような精神疾患では、嫌な考えにとらわれることで悪循環に陥ることがあります。そのような悪循環を軽減するには、気づきの幅を広げることが大切です。そのとき、瞑想で用いられる方法が役立ちます。つまり、今の瞬間、瞬間に起きたさまざまなことに気づき、それをあるがままに受け入れていくことで、考えへのとらわれを減らしていくのです。そのような気づきをマインドフルネスと呼びます。これを精神療法の1つとしてトレーニングしていきます。[2] ただし、マインドフルネスを用いたからといって、雑念や強迫観念がまったくなくなるわけではありません。


§2 人がとらわれるのは過去、将来のこと

マインドフルネスの基本的な考え方を、具体的な例を用いて説明します。
人は誰でも、今のことよりも、過去や将来のことを考えている時間が多いものです。たとえば、友人にメールを出したが、返事が来ないというケースで考えてみましょう。


上記のような考えは日常的に思い浮かぶものです。しかし、ときには物事を悪いほうに想像してしまうことがあります。


うつ病などの精神疾患を抱えていると、メールの返事が来なかったという事実に対して、想像が悪い方向へとらわれてしまい、落ち込むことがあります。そのため、認知行動療法の認知再構成という技法では、とらわれている考えに対し、別の視点から考えるようにして検証していきます。

例2では、「この前、会ったときに何か悪い気分にさせてしまったせいだろうか」という考えにあえて反証してみます。すると、「相手が忙しそうだった」「以前にもメールの返事が来ないことがあった」などの考えや体験が思い出されます。そして、そこから現実に適した対処法を考え、相手にもう一度連絡をとるなどの行動をしてみます。

例3は、OCDの加害恐怖の人によくある考えです。


OCDは、将来、悪いことが起きてしまうのではないかという強迫観念にかられ、その防御として強迫行為を行ってしまう病気です。OCDの症状が重い人ほど、強迫行為を積み重ねてきた過去の経験に支配され、手をゆるめることができません。後回しにして手遅れになってはいけないと考えるからです。その結果、「今すぐ強迫行為をしたい」という衝動にかられてしまうのです。しかし、強迫行為を行うことは悪循環に陥ることになりますので、「過去」を憂い、「将来」の悪い結果を想像して恐れるよりも、OCDの改善のためには、「今」の行動を変えていく必要があります。

§3 考え、感情、体の感覚を区別する

認知行動療法では、考え、感情、体の感覚を次のように区別します。


これらはいずれも意識で、気づくことができるものです。OCDに苦しめられているとき、考えに現れる症状には、強迫観念と頭のなかの強迫行為とがあります。また、不安などの嫌な感情が生じます。そして、体の感覚としては、「汚いと思うものにさわっていないのにさわったかもしれないと感じる」「電気のスイッチを切ったかどうかじーっと凝視をしてもきちんと見えた感じがしない」というように、感覚の一部が敏感になり錯覚をもたらすことがあります。


そのような基本に基づいた訓練法(エクササイズ)はいくつもあり、そのような訓練を積むことで、気づきの幅を広げ、今に集中する能力を高めるようにします。このようにマインドフルネスは、これまでの認知行動療法の技法である曝露反応妨害(第一世代)や認知再構成(第二世代)とは異なった面に働きかけていくもので、認知行動療法の第三世代の技法の1つとされています

例4は、レーズンという物を通して、今の感覚を観察するトレーニングです。


このようにすることで、目の前のレーズンをすぐに食べてしまっては、気づかなかった感覚がいろいろとあることを体験します。

§4 OCDでのマインドフルネス

OCDの治療では、マインドフルネスを単独で行うのではなく、認知行動療法のなかの曝露反応妨害法(E/RP)という技法と組み合わせて行う方法が英米で報告されています。一般向けの書籍[3,4]にも紹介されているので、そのポイントを解説します。

1 考えと事実とを区別する
不潔恐怖がある人では、強迫観念として「私が汚れたと思っている」と考えますが、それは考えであって、物理的に「私が汚れた」こととは区別します。OCDの不潔強迫の人は、警戒する範囲をOCD以外の人では気にならないところまで広げています。感染症のように目に見えないウイルスが原因となる病気は確かにありますが、患者さんの頭のなかで生まれた「目に見えない汚れは悪いことをもたらす」というのは「考え」にすぎないことを意識します。しかし、これまでの強迫行為の経験と強い嫌な感情が伴うために「考え」にすぎないことも無視できなくなってしまっているのです。

2 わからないこともそのままにしておく
不潔強迫の人は、どこまでが本当に警戒する範囲でどこからが過剰なのか、その区別がわからないといいます。また、戸締りの確認が過剰な人では、電気のスイッチが本当にオフになっているかどうか、ずっと見ていてもわからなくなってしまうことがあります。「汚いときれいの境界がよくわからない」「大丈夫なのかはっきりせず、確かな感じが得られない」というのも強迫症状の特性です。その不確かな部分をなくして、すっきりさせようとすることは強迫行為になりかねず、しかも、一度行っただけでは安心できずに、繰り返したくなってしまうことがあります。したがって、そのような不確かなもやもやした今の感覚に対しては、気づくだけに留めます。

3 強迫観念に気づくだけ
強迫観念にかられて、それを打ち消そうと強迫行為を行ってしまうと、悪循環となって、OCDに支配されてしまいます。このような何とかしようという態度を「ドゥーイング・モード(Doing Mode)」と呼びます。悪循環に陥ったときは、ドゥーイング・モードではうまくいきません。マインドフルネスでは、現状をあるがまま受け入れる「ビーイング・モード(Being Mode)」を目指します。マインドフルネスでは、強迫観念を打ち消すのではなく、強迫観念が「ある」ことに気づくだけを目指します。


強迫観念を受け流せないかと考える人もいるでしょうが、マインドフルネスを行っても、そう簡単に消え去るものではありません。むしろ、自分から強迫観念を消そうとすることはドゥーイング・モードであり、頭のなかの強迫行為になってしまうことを理解しましょう。また、強迫行為をしたいという衝動に気づいて、それを我慢し続けるのも難しいものです。その場合は、強迫観念に気づいた後、自分から不安な感情や、もやもやしたあいまいな不快さをもたらすものに、曝露(エクスポージャー)と反応妨害をしていきます。

§5 体の感覚への気づき

OCDへの曝露反応妨害法は治療の効果が得られない人がある程度の割合でいます。海外ではマインドフルネスを併用することによって、曝露反応妨害に取り組みやすくする方法が提案されています。



OCDに襲われているときには、体のどこかが緊張して、力が入っているものです。たとえば、ドアの戸締りが気になる人では、カギをかけた後に力を入れて何度もドアノブをガチャガチャと確かめることがあります。しかし、そんなに強い力が必要でしょうか。力のない人は戸締りがおろそかになるでしょうか。そんなことは決してないでしょう。通常のドアでしたら、さほど力を入れなくても、閉まっているかどうか確認できるものです。つまり、力を込めてドアノブを動かしていることも強迫行為ということになりますので、力が入っているなと思ったら、ゆるめてみることが、OCDにやや逆らったことになります。むしろどの程度、力をゆるめられるか試してみてもいいのです。

電気機具やガスレンジのスイッチを切った後、長い時間、じーっと見つめてしまう人は、確認自体が強迫行為になっており、加減がわからなくなっています。しかし、目が不自由な人は、どのように確認をしているか考えてみてください。手でさわった感触や音で、判断しているはずです。つまり、見ることで確認しているときには、目のあたりの感覚に注意を向け、まぶたに力が入っているようならゆるめて、スイッチをさわった手の感覚や鍵が閉まった瞬間の音など他の感覚に注意を向けたほうが、閉まったという感覚に気づきやすくなることもあります。

そして、そのように強迫行為とは異なった方法であっさり確認を済ませた後に不安になったら、その不安に対して曝露していきます。「これでダメなら、そのときはそのとき」「もうどうなってもいい」と、恐怖に十分な時間と回数をかけて挑んでいきます。これは確認ではなく、曝露を何回も行うのです。OCDのときはあせると、かえってうまくいきませんが、マインドフルネスのエクササイズは動作をゆっくり行うので、それを取り入れることが役立ちます。

日本では、まだOCDの治療にマインドフルネスを取り入れている専門家は少ないと思われます。ただ、マインドフルネスは、日本古来の瞑想の考えと似た部分があり、親しみやすい面もあります。今後、精神療法として活用されていくことが期待されます。


*参考文献
[1] 菅村玄二、補遺 マインドフルネス心理療法と仏教心理学、「マインドフルネス認知療法―うつを予防する新しいアプローチ」北大路書房p270-277
[2] Z.V.シーガル、J.M.G.ウィリアムズ、J.D.ティーズデール[著]越川房子[監訳]2007年「マインドフルネス認知療法―うつを予防する新しいアプローチ」北大路書房
[3] Jon Hershfield、Tom Corboy[著]、2013年、The Mindfulness Workbook for OCD: A Guide to Overcoming Obsessions and Compulsions Using Mindfulness and Cognitive Behavioral Therapy, New Harbinger Pubns Inc.
[4] Paul R. Munford, Ph.D. 2004年、Overcoming Compulsive Checking: Free Your Mind from OCD, New Harbinger Pubns Inc.