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OCDコラム

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女性ならではのOCDの悩みと苦労

OCDは、女性と男性とでは異なる面がいくつかあります。女性ホルモンが症状に関連すると考えられていて、月経前に強迫症状の変化を経験したり、思春期、出産、更年期といった時期をきっかけとして、OCDを発症したり、症状が変化する女性がいます。
また、成人女性は、仕事や家庭でさまざまな役割を担いますが、OCDを抱えていると、そのような役割をこなすことが難しくなり、役割を果たせないことによる葛藤で症状が重くなるなど悪循環になってしまうことがあります。今回のコラムでは、そのような女性ならではのOCDの悩みについて、いろいろな調査を紹介しつつ、対処の方法を考えていきます。


目次
§1 女性のOCDの特徴
§2 月経による周期的な変化
§3 妊娠、出産、閉経による影響
§4 女性ホルモンと男女の脳の違い
§5 女性としての役割への支障とその対処


§1 女性のOCDの特徴

OCDの患者さんの男女別の割合はほぼ同じといわれています。報告によっては、女性のほうがやや多いというものもあります。発症年齢には、男女差があり、児童期(6~15歳)に発症した人の割合は男性が多いのですが、成人(20歳以降)で発症した人の割合は女性の方が多くなります。[1,2]

OCDの発症原因を特定することは難しいのですが、発症前にストレスの高い出来事を経験したという人が多く、それが発症のきっかけとして考えられるという報告がいくつもあります。イタリアのロッソ博士らの調査[3]では、329名の患者のうち61%が、OCDを発症する前の1年以内に1つ以上のストレスの高い出来事(身近な家族の死・入院、重大な身体疾患にかかるなど)を経験したという結果がでました。そして、女性のほうがそのようなストレスの高い出来事が発症に関連した割合が高かったそうです。

また、不潔・汚染に強迫症状が現れるタイプや、子どもに危険・危害が及ぶことを警戒する強迫観念は、女性に多いという報告もあります。ただし、このような調査は海外の報告ばかりで、国によって、親との関係や自立に対する考え方、衛生環境や水道の普及状況、入浴方法などの生活習慣が異なるため、ストレスと感じる出来事の内容や強迫症状のタイプも、日本と傾向が異なる部分があると考えられます。

§2 月経による周期的な変化

月経の前や月経のときに、精神や身体に影響があるかどうかは、個人差が大きいのですが、OCDを抱える女性の約半数が、月経前に強迫症状の悪化を経験しています。[4]

ただし、OCDではない女性でも、月経がある人では50~90%が月経前症候群(PMS)を経験するという報告があります。月経前症候群は、月経前3~10日から月経が始まるまでの期間に、次のような心身の症状が生じるものです。


このように女性は、月経による周期的な変化が、心身の調子に影響を与える傾向があり、OCDを抱えている人では、それが強迫症状にも現れると考えられます。また、うつ病、パニック障害は、男性よりも、女性のほうが患者さんの割合が多いのですが、そのような症状を抱えている人でも、月経の影響を受けることがあります。

月経の時期に、一時的に精神症状が悪化して、強迫行為に時間がかかってしまったとしても、それが習慣とならないよう、体調や気分の回復とともに行動をリセットできるようになるとよいでしょう。

§3 妊娠、出産、閉経による影響

フォレー博士らによる調査では、OCDの女性で、妊娠・出産を経験した人のうち、妊娠中(流産を含む)もしくは出産後の間もない時期に、強迫症状が悪化した人は34%、改善した人は22%、変化がなかった人は44%でした。同調査では、妊娠・産後の期間にOCDを発症した人は32%でした。[5]このことが、女性でのOCDを発症する平均年齢が男性よりも高いことの一因となっています。

精神症状の有無に関わらず、出産をした女性のうち30~50%がマタニティブルーを経験するといわれているように、妊娠・出産は、精神に影響を与えやすい時期といえます。マタニティブルーは、出産の数日後から一時的に精神が不安定になるもので、通常は1週間前後で、自然に回復していきます。また、出産を経験した女性の3~6%が、妊娠中もしくは産後数ヶ月までの間に、抑うつ症状を経験します。ただし、このうちの半数は妊娠以前に抑うつ症状を経験したことがある人が含まれます。

また、OCDを抱える女性のうち47%が、閉経を迎える頃に強迫症状が悪化したという報告があります。[4]閉経の平均年齢はおおよそ50歳で、更年期はその前後の約10年間を指します。この時期は卵巣の機能が低下し、徐々に女性ホルモンの分泌が減っていき、それに伴い精神症状も影響を受けることがあります。

§4 女性ホルモンと男女の脳の違い

月経、妊娠、出産、更年期・閉経といったそれぞれの時期では、女性ホルモンが変化することで、OCDのような精神症状にも影響が及ぶと考えられます。また、思春期も女性ホルモンが変化する時期なので、精神状態に、影響があらわれやすいといえます。

女性ホルモンには、卵胞ホルモン(エストロゲン)黄体ホルモン(プロゲステロン)とがあります。女性ホルモンによって、女性らしい体つきになり、月経がコントロールされ、妊娠・出産が可能となります。女性ホルモンは、このような女性的な機能のほかにも、身体の各部でさまざまな働きをします。そもそも脳は、男女で異なる部分があり、それは出生前の胎児の頃の性ホルモンの違いによってもたらされます。たとえば、異性に恋愛感情を抱いたり、男性と女性とではファッションの趣向が異なるのも、男女の脳の違いによるものです。

女性ホルモンは、主に卵巣、副腎皮質から分泌されます。その分泌は脳によってコントロールされているのですが、ストレスによって分泌されるホルモンのバランスが変化するため、それが精神症状にも影響すると考えられます。

分泌されたホルモンは、血液を通して体の中を循環します。各ホルモンに対し、それを受け取る受容体という物質が決まっていて、その受容体がある細胞にだけそのホルモンによる作用が生じます。たとえば、エストロゲンは、子宮などの細胞の中にあるエストロゲン受容体と結合することで、子宮へ働きかけます。エストロゲン受容体 (*1)は、子宮、乳腺などのほかに、全身に広く分布しています。エストロゲン受容体は、脳では、前頭葉、扁桃体、視床下部、縫線核(ほうせんかく)といったOCDに関連が深い部位にも含まれ、その分布は男性と女性とでは違いがみられることがわかってきました。[6]したがって、月経や妊娠・出産などによるエストロゲンの変化が、脳にも影響を与えると考えられます。

§5 女性としての役割への支障とその対処

人生には、進学、就職、転居、結婚、出産などの転機が訪れ、それにより多忙を極めることがあります。家事、子育て、介護、学校・地域の委員活動など、仕事以外の役割はどちらかといえば女性のほうが多く抱えていることがあります。仕事をしてそのほかいくつもの役割を抱えていれば、誰でも大変な思いを経験します。仕事をもっていなくても家事や育児、介護は重労働であり神経を使います。OCDの人では、そのような状況でやり繰りすることが難しく、病状に影響を与えてしまうこともあります。次に、OCDの女性が抱えやすい問題とその対処についてまとめます。

① 強迫症状によって家事や予定に支障をきたし、収拾がつかなくなってしまう
―――まず自分の病状や置かれた状況を受け入れることが大切です。強迫症状に時間と労力を奪われることで、家事に支障がきたしたりするからです。そして、家族と話し合って、自分が行うことを取捨選択して、家族と分担することが必要となります。このような病気にかかると、決断をする自信がなくなることがありますが、先延ばしをしないで行動に移す、あるいは実行できそうにないことはあきらめるなど決断が大切な場合があります。

②女性ホルモンが変化する時期を考慮して、事前に適切な治療を受けられるとよい
―――妊娠、出産、更年期などでは、女性ホルモンに変化が現れます。特に妊娠や授乳の期間は、薬物療法が困難となります。OCDの治療薬であるSSRIは、妊娠中もしくは妊娠の可能性のある女性は服薬しないことが望ましいとされています。また、授乳期間中も服薬しないことが望ましく、服薬する場合は母乳ではなく人工乳(粉ミルク)を用いることとされています。[7]このように薬物療法が行えない期間の治療は、認知行動療法が第一選択肢となります。しかし、妊娠中は行動範囲が限られますし、出産後の育児は、誰であっても大変な作業なので、認知行動療法の課題をこなすのは簡単ではありません。妊娠、出産を考え始めたら、OCDの治療をきちんと行えるとよいのです。

③子育て中の女性が心配する、OCDが子どもに及ぼす影響
―――OCDの発症にはいくつもの要因が関係します。したがって、親がOCDだからといって、子どももそうなるとは限りません。子どもの発育の年齢にもよりますが、強迫症状に巻き込むことで、子どもの日常生活、遊び、運動、学業、社会参加などの活動を妨げてしまうと、心身の成長に影響を与える可能性が考えられます。また、OCDがきっかけとなって夫婦で言い争いをしたり、子どもを過剰に叱る場合も、緊張しやすい子になったり、精神的に敏感になるなど影響を及ぼすことがあります。

④OCDであることを隠しているために生じる誤解
―――専業主婦では、家事や子育てをしっかりしているように思われがちですが、実際にはOCDの症状のために、できることが非常に限られてしまっていることがあります。そのような誤解を解きたくても、OCDであることは打ち明けにくく、話しても理解が得られにくく、よけい状況を難しくさせてしまうことがあります。ただし、OCDという事情を知らない人からすれば、わからない面があって当然です。周囲の人の誤解を解決できるかどうかは状況にもよりますが、患者さんは自分の性格や本来の能力への評価と区別して考えてください。

※ ※ ※

OCDは、重症化すると非常に厄介な病気です。強迫症状にとらわれているときは、ほかに目が向きにくいかと思いますが、子どもや家族の立場を思いやり、強迫症状への巻き込みをできるだけ減らし、治療を優先していただければと思います。


*注釈
*1 エストロゲン受容体―――女性の生殖組織の細胞、その他の一部の組織の細胞などの内部にあるタンパク。女性ホルモンのエストロゲンが細胞内でこの受容体と結合することで、細胞を増殖する。

*参考文献
[1] American Psychiatric Association[著]、日本精神神経学会[日本語版用語監修] 、2014、「DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル」医学書院
[2] Mathis MA, Alvarenga Pd, Funaro G, Torresan RC, Moraes I, Torres AR, Zilberman ML, Hounie AG. 2011 Gender differences in obsessive-compulsive disorder: a literature review, Rev. Bras. Psiquiatr. vol.33 no.4 São Paulo Dec.
[3] Rosso G, Albert U, Asinari GF, Bogetto F, Maina G. 2012 Stressful life events and obsessive–compulsive disorder: clinical features and symptom dimensions, Psychiatry Research 197.pp259–264.
[4] Vulink NC, Denys D, Bus L, Westenberg HG. 2006 Female hormones affect symptom severity in obsessive-compulsive disorder. Feelings of Incompleteness Studies on dopamine in obsessive-compulsive disorder, Int Clin Psychopharmacol;21(3):171-5.
[5] Forray A, Focseneanu M, Pittman B, McDougle CJ, Epperson CN. 2010 Onset and exacerbation of obsessive-compulsive disorder in pregnancy and the postpartum period. J Clin Psychiatry;71(8):p1061-8.
[6] 林しん治 2003 特集 脳内エストロゲン受容体 日本比較内分泌学会ニュースNo. 109 P 109_4-109_11
[7] 林しん治 2003 特集 脳内エストロゲン受容体 日本比較内分泌学会ニュースNo. 109 P 109_4-109_11