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醜形恐怖症/身体醜形障害とは?

醜形恐怖症/身体醜形障害(Body Dysmorphic Disorder :BDD)とは、自分の外見・容姿について、他人にはとくに気にならないわずかな欠点にまで、とらわれてしまう精神疾患です。ニキビが気になって何度も鏡を見たり、「もう少し目がぱっちりしていたら」「鼻が高かったら」と、自分の容姿に悩んだりしたことは、誰しも経験あると思いますが、その程度でしたら病気ではありません。BDDは、外見の欠点にとらわれることで、OCDと同じように精神的な苦痛と日常生活への支障がもたされます。アメリカでまとめられた新しい精神疾患の診断基準(DSM-5)では、このBDDがOCDの関連疾患として分類されるようになりました。BDDとOCDとは、どのようなところが似ていて、どのようなところが違うのかを考えながら、BDDの特性と治療法を紹介します。


目次
§1 醜形恐怖症/身体醜形障害(BDD)とは
§2 BDDは10代で発症する人が多い
§3 ボディイメージとBDDの関連疾患
§4 BDDの治療


§1 醜形恐怖症/身体醜形障害(BDD)とは

BDDでは、顔の一部(目、口、鼻など)、髪型、ニキビのある肌などのように人の目に触れやすい部位を気にする人が多いのですが、人によっては身体のあらゆる部位が気になることがあります。体の一部分の太さやたるみ、筋肉の付き方が気になったり、他人には見られることのない性器、乳房、体毛の形などまで気になる場合もあります。

実際に外見上欠点とも思われる特徴に対して過剰に悩む患者さんもいますが、他人からはまったく気にならない特徴に対して悩む、「思い込み」である場合も少なくありません。つまり、実際の容姿に対して相応な心配ではなく、容姿への観念的な悩みが主となり、不安や嫌悪などの感情が強くなってしまっているのです。

BDDとOCDの強迫観念とが異なるのは、BDDではとらわれる部分が外見のみに集中していることです。似ている点は、OCDと同様に、そのような考えに駆られて強迫行為をしてしまうところです。BDDの強迫行為には次のようなものがあります。


BDDでは、このような症状に少なくとも1日1時間以上、平均で1日に3~8時間とらわれます。しかし、上記の行為のうち、「鏡をひんぱんに見る」「気になる部分を隠す」ということは、ある程度は当然と考えられ、どこからが強迫行為なのかわかりにくいことがあります。このためBDDでは、OCDに比べ病識が少ない人が多いといわれています。[1]

しかしながら、BDDでも、上記の行為に多くの時間を費やすなど、自分でコントロールすることが難しくなると、精神的な苦痛を感じるようになります。そして、日常生活にも支障をきたしてしまい、重症になると、学業や仕事をそれまでと同じようにすることが困難となり、ひきこもり状態になることもあります。

§2 BDDは10代で発症する人が多い

BDDの有病率は、アメリカで2.4%、ドイツで1.7~1.8%[1]、イタリアで0.7%[2]という報告がありますが、これらは国によって調査方法が異なるため、どの国にBDDの患者さんが多いと一概に判断できるものではありません。患者さんの性別は、男性が約40%、女性が約60%です。ただ、実際に、医療機関を訪れてBDDと診断される人の割合は、有病率ほど高くはないと考えられています。[3]

BDDの平均発症年齢は16~17歳で、患者さんの3分の2が18歳までに発症しています。もっとも発症が多いのは12、13歳という思春期です。ただし、10代で発症しても、十分な治療を受けられないと、20代以降も症状を抱えたままになることがあります。BDDの患者さんの年齢は、4、5歳から高齢者までと幅広いのです。

思春期には、男性は男性らしく、女性は女性らしい兆候がからだにあらわれます。同時に、精神的にも、自分をどう意識するかという自己意識が他者を意識するなかで変化します。他人と自分との違いや他人からどう見られるのかをそれまで以上に意識するようになります。そして、「こうありたい」と考える理想の自分と、現実の自分とのギャップに気づき、劣等感(俗にいうコンプレックス)を抱くことは、多くの人が経験します。他人との違いを意識することで生じる内省的な物思いは、思春期から青年期にかけて、外見に限らず、勉強やスポーツなどさまざまな体験を通して、次第に精神的な自己や価値観を形成し、自分の適性や将来の進路を考えるようになります。

BDDの患者さんは、子どもの頃、かわいらしい容姿をしていて、周囲(とくに母親)から「かわいい、かわいい」と評価され成長した人が多いそうです。この病気の有名人に、アメリカの大スターであった故マイケル・ジャクソンさんがおり、醜形恐怖のために整形手術を繰り返していたことが知られています。[4]彼は、子どもの頃から"ジャクソン5"という兄弟で結成した音楽グループで活躍していました。歌もダンスも天才的なマイケルさんは、グループのなかでもとくに人気を博していました。子どもの頃のマイケルさんは、とてもかわいらしい顔つきでしたが、成長するにつれ、本人は鼻やあごの形などが気になっていったそうです。むしろ長所が多く、完璧主義な人のほうが、些細な欠点が気になりやすいようです。

思春期に発症したBDDの患者さんは、自分の理想と現実の自分とのギャップに気づくことで、これまでの自分の位置づけや、自分の価値観が脅かされるような不安を経験します。そこから生じる不安や嫌悪感を、打ち消そうと強迫行為を繰り返し行うと、かえって不安を敏感に感じやすくなってしまいます

BDDが重症化すると、症状に奪われる時間が増えてしまいます。友人たちが学問やスポーツで活動しているのに、自分はBDDの強迫行為によってできることが限られてしまうと考えて、さらに劣等感を抱くという悪循環に陥ることがあります。そうなると、外見だけではなく、さまざまな面で自信が奪われるため、抑うつ的な症状があらわれることもあります。成人してから発症した人に比べ、思春期・青年期で発症し、なおかつ重症の場合、希死念慮を抱きやすく、自殺に至る危険性があります。しかし、BDDの人たちが抱える悩みは、思春期に抱きがちな劣等感と区別することが難しいこともあり、深刻な病態であっても、周囲の人からの理解が得にくく、誰にも話せずに一人で悩みがちです。

§3 ボディイメージとBDDの関連疾患

ボディイメージとは、自分の体や特徴に対するイメージや自己評価をいいます。頭で思い描いた観念的なもので、実際の外見とはズレがあります。鏡で自分の顔や体型を見て、ショックを感じたことがある人もいらっしゃるでしょう。BDDのように強い不安や嫌悪感が伴う病気では、現実には些細なことでも、ボディイメージでは重大な欠陥と評価し、解消しなくてはならないという思いに駆られてしまいます。[3][4]
OCDの患者さんが、他の人が汚いとか危険だと思わないものにまで、怖れを感じ、警戒してしまうのと似ています。

摂食障害(参考:第25回OCDコラム )は、過食や拒食という食事に関して症状があらわれる精神疾患です。摂食障害でも、自分のボディイメージと実際の体型とのギャップから、恐怖を伴う嫌悪感が生じやすくなってしまいます。そのような感情に駆られて、過剰に過食や拒食の行為を繰り返して、自分ではコントロールが困難となる点がBDDと共通しています。

BDDでは、対人恐怖(社交不安)(参考:第68回OCDコラム )を伴うタイプと、伴わないタイプとがあります。対人恐怖を伴う人は、他人が怖いかどうかというよりも、他人と比べて自分の評価が低い、他人からどう見られているのかといった観念が強く、現実とのギャップが大きいことが症状に影響します。

§4 BDDの治療

BDDでは、他人に話してもわかってもらえない体験をしてきた人や、他人からの評価に敏感になっている患者さんが多い傾向にあります。そのため、相談を受ける側の人は患者さんの訴えを理解し、信頼関係を築くことが求められます。

BDDの治療では、容姿への悩みから不安や嫌悪感が生じ、それを打ち消すために、気になる部分を隠したり、過剰に装ったりする行為をします。これはOCDの強迫観念と強迫行為の関係と同じで、悪循環となり症状が強化されていきます。この悪循環を変えていくことが治療の目標となります。

イギリスでは、有効と認められた治療法をガイドラインとして、国が作成していますが、OCDとBDDは同じ冊子にまとめられています。そこでは、BDDの治療でも薬物療法と認知行動療法が有効とされています。[2]

薬物療法では、SSRI(フロボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム)*1が主に使われます。

認知行動療法では、病識があまりない患者さんもいるため、症状や治療法への心理教育を行ったり、外見が完璧ではなくてはならないという信念や自分への否定的な評価が強い場合は、認知(考え方)にはたらきかける技法によって、思考の柔軟性を目指すことがあります。OCDと同様に、曝露反応妨害(E/RP)という認知行動療法の技法が用いられます。一般的な方法では、患者さんの症状に合わせて不安階層表を作り、段階的に患者さんが避けてきた不快な状況に直面してもらうようにします。たとえば、今まで気になる部分を服装で隠してきた人には、あえて、その部分を隠さずに外出してもらい、他人に見られるという曝露療法(エクスポージャー)を行います。そのような刺激に慣れていくことを徐々に体験します。

BDDを抱えていても、受診する人は少なく、BDDと診断される人もそれほど多くないため、精神科医でも深刻なBDDの患者さんに出会った経験がない人がいます[3]。現状では適切な治療法もそれほど普及していません。そのため、患者さんやご家族にとっては、どの医療機関を受診したらいいか戸惑うこともあるかと思います。その場合、前回の第130回OCDコラム を参考に、医療機関を探していただければと思います。


*注釈
*1 SSRI―――薬には、化学物質としての薬品の一般名と、製造会社が自社の商品につけた商品名とがある。フロボキサミンは一般名で、その商品としてはデプロメール、ルボックスが、処方箋薬局で販売されている。パロキセチンの商品はパキシル、セルトラリンの商品はジェイゾロフト、エスシタロプラムの商品としてはレクサプロが販売されている。

*参考文献
[1] American Psychiatric Association[著]、日本精神神経学会[日本語版用語監修] 、2014年、「DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル」医学書院
[2] National Institute for Health and Care Excellence. Obsessive-compulsive disorder: Core interventions in the treatment of obsessive-compulsive disorder and body dysmorphic disorder. 2005, NICE guidelines [CG31].
[3] International OCD Foundation, Body Dysmorphic Disorder (BDD) http://bdd.iocdf.org/
[4] 鍋田恭孝[著]、 2011年、「身体醜形障害 なぜ美醜にとらわれてしまうのか」講談社