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OCDコラム

OCDコラム

病気と身体に関連したOCD

重い病気にかかることは、誰しもが恐ろしく避けたいと思いますが、OCDの疾病(しっぺい)恐怖は、病気に対する恐れ方が甚だしく、その不安から強迫行為をするようになります。また、病気や傷というほどではないのに、顔や髪、肌、歯など体の一部分を気にし過ぎてOCDの症状となっている人もいます。また、長時間にわたって、体を洗い続けることや無理な姿勢で強迫行為をすることによって、身体にダメージを与えてしまうこともあります。OCDは精神の病気ですが、身体の病気や症状とも関連することを今回のコラムでは紹介します。


目次
§1 OCDでの疾病恐怖
§2 感染への恐怖と考え方
§3 体の一部が気になるOCD
§4 無理な強迫行為が体に与える負担
§5 まとめ


§1 OCDでの疾病恐怖

OCDの疾病恐怖では、病気にかかることを非常に恐れ、病気にかからないための予防策を自己流で過剰に行います。結果、これが強迫行為となります。病気を恐れるあまり、ばい菌や血液などを気にする不潔恐怖、自分が原因で家族など周囲の人が病気になってしまうのではないかと過剰に心配する加害の強迫観念を抱く人もいます。

OCDの疾病恐怖では、漠然と重い病気になったら嫌だというタイプと、特定の病気を恐れるタイプがあります。

特定の病気が気になるタイプでは、がん、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)・エイズのように生命に関わる病気が恐怖の対象となることが多いようです。病気にかかっていないか不安になり、病院へ検査に行く人もいます。検査結果で異常がないとわかって安心できればよいのですが、OCDを抱えていると、そのような安心を得ることが難しく、「ちゃんと検査ができていなかったのではないか?」と疑い、再び検査を受けたくなります。

このように検査では異常がないのに、病気にとらわれる症状は、OCDのほかには、身体症状症(*1病気不安症(*2(従来の診断基準では心気症と呼ばれていた)に相当するものがあります。身体症状症や病気不安症の場合でも、OCDと同様に検査に何度も行く行為をする人はいます。しかし、精神疾患の診断基準であるDSM-5[1]によると、OCDでは身体症状症や病気不安症に比べ、病気への心配が侵入的で繰り返し現れる強迫観念となっていて、その強迫観念に駆られて除菌や掃除を過剰に行う強迫行為になります。また、日本では、疾病恐怖のために、縁起にとらわれた強迫行為をする人も多くみられます。

§2 感染への恐怖と考え方

2014年は、西アフリカでエボラ出血熱の感染が広がりました。西アフリカから遠く離れたアメリカでも感染者が出たというニュースを見て、「日本にも感染が広がったら」と心配する人も少なくないでしょう。しかし、OCDのような不安や警戒感が強い病気を抱えている人では、このような恐怖が募りやすく、自分の身にふりかかることを安易に想像してしまいます。そして、「防御をしなくてはいけない」という考えに過剰にとらわれ、「西アフリカからの渡航者がいるかもしれない」と、国際空港とそこへつながる鉄道の利用を避けたり、アフリカと書かれている商品を見ただけで避けたくなるなどの強迫症状となっていきます。

また、生命に関わる病気ではなくても水虫や性病のような感染症に対して、OCDの人が過剰に警戒することもあります。

このような菌やウイルスによって感染する病気に対して正しい知識を得ることが大切です。病気の正しい情報を得る手段として、インターネットや書籍で調べる場合は、公的な研究機関、厚生労働省などの行政が関わっている、大学の研究者、医師が自らの名前で発信している情報が、信頼性が高いと考えられます。

ただし、OCDの人は、一般的な情報には書かれていない細かい部分やレアケースが気になって不安になる傾向があります。たとえば、血液によって感染するHIVなどの病気に恐怖を抱いている場合は「公共のトイレの便座に血液らしいものがわずかについていたが、どのくらい拭けば安全なのか」「蚊に刺されたことで感染しないか」「不特定多数の人が触る電車のつり革にウイルスがついていないか」といったことを心配します。HIVはそのような場面で感染することはありませんが、不安を抑えることができなくなるのです。

HIVやエボラ出血熱のような感染症は、専門家と国とで対策を講じるレベルのものです。OCDの人が、恐怖に駆られて自己流の判断で対策をしてしまうと、強迫行為になりかねません。専門家の判断を信じて任せてはいかがでしょうか。

§3 体の一部が気になるOCD

体の一部が気になってしかたないOCDでは、人によって気になる体の部分はさまざまです。頭髪から足の先まで、いろいろな部位にとらわれている話を聞きます。



実際に周囲の人が気にすることはほとんどありませんが、自分の体臭が、人に不快感を与えているのではないかという考えにとらわれる自己臭恐怖も、OCDに関連した疾患として、新たに診断基準(DSM-5)に掲載されました。自己臭恐怖は、他人にどう思われるかを気にするので対人恐怖、社交不安症の症状の表れであることもありますが、自己臭を警戒して、確認のために何度も自分の臭いを嗅いでみたり、臭いをなくそうと過剰にシャワーを浴びたりしていると、それが強迫行為となり、OCDに相当することもあります。

また、過敏性腸症候群(IBS)という内科的な検査では異常がないが、お腹の痛みや違和感、下痢や便秘など排せつの異常をもたらす病気がありますが、IBSの患者さんの35%がOCDを抱えているという報告[2]がありますから、このコラムを読んでくれている人のなかにも悩んでいらっしゃる方がいるかもしれません。

IBSのような病気では、「お腹が痛くなったらどうしよう」「電車に乗っているときに便意を催したら……」と、体の一部を気にすると、そこに向けられる感覚が敏感になって、さらに気になってしかたがないという悪循環になります。OCDの患者さんの体の一部へのとらわれでも、気にすればするほど、ますます気になるというしくみは似ています。

§4 無理な強迫行為が体に与える負担

強迫行為を長時間行うことが、体に負担を与えてしまう場合もあります。患者さん自身もそのことはわかっているのですが、強迫行為を止められないのがつらいところです。



冬はインフルエンザや風邪の対策として、「手洗い、うがいをしましょう」と耳にする機会が増えます。OCDの患者さんのなかには手洗いやうがいはしっかりするものの、自分が気になるところ以外は掃除が行き届かないことがあります。また、外は汚れているという強迫観念がある人では、窓を開けないため、空気が汚れた室内で生活していることもあります。

OCDが重症化すると、強迫症状にとらわれる時間が増え、自宅にこもりがちとなり、体を動かす機会が減ります。さらに、心身の疲労も増すので、不健康な生活となり、体調を崩す人も少なくありません。OCDお話会という患者会では、家族に比べ、患者さん自身の体調不良を理由として会への参加予約をキャンセルすることが多いそうです。

§5 まとめ

健康を気にかけることはよいことです。しかし、手洗いやうがいなどの行為も含めて、ほどほどが肝心です。OCDという病気は、ほどほどの加減がわからなくなることがあります。そのため、いつまでも手を洗い続けてしまい、肌に必要な皮脂まで落として、手が荒れてしまうこともあります。

身体は、さまざまな機能がバランスを保ちながら働いているで、何かを過剰に行うとバランスを崩すことになり、体に負担を与えたり病気になったりすることがあります。

がんやHIVなど身体の重い病気にかかることは誰しも恐ろしく、その闘病はつらいことでしょう。しかし、OCDも重症化すると、非常につらく、患者さんを苦しめます。重度・極度になると、病院へ行こうにも外出そのものが困難となりますし、それぞれの地域にOCD治療にくわしい医師や専門家がいるとは限らず、希望する治療が受けられないことも考えられます。そのような点では非常に厄介な病気といえます。

まだかかっていない病気を必要以上に心配して、自己流の予防に労力を費やすよりは、既に、抱えているOCDの治療を優先していただきたいと思います。


*注釈
(*1)身体症状症――身体上の健康や症状について、実状とはかけ離れて深刻に考えたり、強い不安が続くもの。そのような懸念を解消しようと、過度の時間と労力を費やしてしまう。
(*2)病気不安症――検査では身体の症状は見られない、もしくはごく軽度であるにも関わらず、自分が重い病気にかかっている、あるいはかかりつつあるようにとらわれるもの。病気についての強い不安や恐怖を伴うとらわれが6か月以上続き、何度も受診して医療を過剰に求めるタイプと、医療による診療を避けるタイプとがある。

*参考
[1] American Psychiatric Association[著]、日本精神神経学会[日本語版用語監修] 、2014年、「DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル」医学書院
[2] Masand PS, Keuthen NJ, Gupta S, Virk S, Yu-Siao B, Kaplan D. 2006年, Prevalence of irritable bowel syndrome in obsessive-compulsive disorder, CNS Spectr. Jan;11(1):21-5.