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OCDコラム

OCDコラム

OCDを抱えながら社会参加・仕事復帰を目指す

強迫症/強迫性障害(OCD)によって、会社や学校を長期間休んだり、1度辞めたりした人が、その後、社会復帰を望んでも、なかなか思うようにいかないことがあります。治療によってもたらされる症状の改善には個人差があります。ある程度強迫症状が残っていても、復学や就職活動にさほど問題がない人がいる一方、強迫症状が残っていることで、就職活動などのストレスに耐えられず、強迫症状が悪化してしまう人もいます。復学・職場復帰の判断は非常に難しいといわざるを得ません。今回のコラムでは、OCDの方が復学・職場復帰をするときの判断のポイントや、自立した生活を目指すには治療や生活面にどのような優先順位をつけたらよいかを考えます。


目次
§1 OCDの重症度と学業・仕事への支障
§2 可能な範囲での社会参加
§3 職業経験の有無と仕事選び
§4 治療費・収入・自立での優先順位


§1 OCDの重症度と学業・仕事への支障

OCDは軽度であるうちは、症状による苦痛はあっても、日常生活に及ぶ支障は1日のうち1~3時間くらいです。この程度でしたら、学校に通ったり仕事をしたりすることができます。しかし、重症化してくると、遅刻や欠席が増えるようになり、学業や仕事を続けることが困難となります。そのため、学校や職場に復帰する場合も、症状の重症度と生活への支障の程度が判断の目安となります。

OCDの重症度を判定するときには、エール・ブラウン強迫観念・強迫行為尺度(Y-BOCS)というものがよく用いられます。Y-BOCSでは、どのような強迫観念や強迫行為があるかを調べるチェックリストのほかに、重症度を調べるために強迫症状に費やす時間や苦痛などを質問する調査票があります。強迫行為を回避したり、家族に家事や外出する用事などを代わってもらったりすると、強迫行為に費やす時間や苦痛は減るので、それらを自分で行ったと想定して質問項目に答えて、測定します。

この尺度は、医療や心理の専門機関で使われていますが、OCDの書籍[1]などにも掲載されています。一般の人でも、それを使えばおおよその重症度を知ることができます。ただし、それは専門家による評価とは違い、正確なものになるとは限らないことを認識しておきましょう。



軽度から中等度でしたら、強迫症状のためにほかの人に比べて作業や行動に時間がかかるなど、多少の支障はあっても、学校や会社へ通うこと自体は可能なレベルといえます。しかし、重度から極度になると、学校や職場に通うこと自体、困難になり、遅刻や欠席が増え、ほかの人と同じように行動できないなど支障をきたしてしまいます。したがって、これらのレベルでは、仕事や学業を遂行するためにも治療をして症状を改善させることが必要となります。ただし、上の表はあくまでも目安であり、個人個人により状況は異なります。このとおりではない場合もあります。

もちろん、強迫症状の現れ方によっても仕事や生活への支障の程度は異なります。たとえば、不潔強迫の人で、外は汚いという強迫観念があり、自宅に戻ると洗浄や着替えなどの強迫行為をするタイプで考えてみましょう。1つめのパターンでは、外では触りたくない物がたくさんあるため、仕事に支障をきたしてしまいます。2つめのパターンでは、外の汚れを自宅に持ち込みさえしなければ、外では何を触っても平気なので、通常通り仕事ができます。ただし、2つめのパターンでも、外の汚れを自宅に持ち込まないために、帰宅後、洗浄行為を徹底的に行うと、非常に疲れてしまい、毎日、外出して仕事を続けることが難しくなることもあります。同じ不潔強迫の症状をもっていても、日常生活への支障の程度は、このように個人差がとても大きいのです。

また、OCD以外の疾患や心身の障害を併存している人では、それらの影響もあるので、OCDの重症度だけでは判断ができません。

§2 可能な範囲での社会参加

OCDは、症状の重症度だけでは、社会復帰の判断に困ることがあります。というのも、OCDにとって、時間は症状に大きく影響を及ぼすからです。

うつ病など他の精神疾患ならば、休養という時間も大切です。しかし、OCDでは暇な時間は大敵です。仕事や学校に通っていると時間の制約があるため、強迫行為を我慢しなくてはいけない場面が多々あります。しかし、自分の自由になる時間が多くなると、つい強迫行為をするようになり、症状の改善がうまくいかないことがあります。OCDは、強迫症状が中等度以上になると、病気と付き合っていくのが難しくなります。強迫行為をする時間が増えれば、症状は悪化してしまいます。

このようなOCDという病気の特質から、学校や仕事に完全に復帰するには難しい段階であっても、症状の程度に合わせて、外での活動に参加できるようになるとよいと思われます。専業主婦の方も、外出して人や社会と関わることを取り入れるとよいでしょう。

強迫行為をする時間の制約となる外での活動は、できれば家族以外の人や社会と関われるものがよいでしょう。これまで家にひきこもっていた人は、自助グループへの参加、医療機関(精神科以外も含む)に予約の時間通りに行くということから始めてみてもよいでしょう。約束の時間に遅れないことを目指して、徐々に外出の頻度や時間を増やしていけるとよいのです。社会生活を送る上で、遅刻や欠席をなるべくしないことが求められます。予約時間に病院へ行くという行為も、社会の約束事に適応していく準備になります。

外に出る場所やきっかけを考えてみましょう。自分の強迫症状に応じて、「ここなら行けそうだな」と思われる場所を挙げてみてください。



§3 職業経験の有無と仕事選び

就職後、OCDが悪化して休職した場合、勤務先によっては復職プログラムの制度があったり、産業医や人事課と相談しながら復職の時期を決めたりと、徐々に就業に慣れていく体制を設けているところがあります。しかし、一般に、このような制度は、OCDを想定した内容ではないため、主治医や企業の担当者と相談しながら復職を目指すことになります。学生の方は、担任や養護の先生、スクールカウンセラーなどと相談しながら復学への方法を考えられるとよいでしょう。

一方、新たな就職先や就学先を見つけるのは難しい面があります。それでも、過去に就労経験がある人でしたら、ハローワークなどを利用して新たな勤務先をみつけていくことが多いようです。しかし、これまで就労した経験がなく、長期間ひきこもっていた人では、何らかの支援が必要となります。そのような支援としては、地域若者サポートステーション(*1のような公共機関や、ひきこもりの人を対象にした支援団体や、精神障害者向けの就労支援センター(*2などがあり、これらを利用する方法があります。

ただし、いずれの相談機関でも担当者は、OCDという病気について、あまりくわしくないことが考えられます。就職が決まり、職場でOCDという病気について配慮してもらうことも必要となりますが、配慮の仕方によっては、強迫行為の回避や代行になってしまい、かえって症状を悪化させてしまうこともありますので、OCDにくわしい専門家による診断書や意見書を提出したほうがよい場合もあります。

就職活動においては、求職者の年齢やそれまでの職業経験によって、希望する職種や会社が限られます。仕事への理想が高く、現実には就くことが難しい仕事を追い求めた結果、就職ができずに自立が遠のくケースも見受けられます。



新たな仕事を探すとき、長時間の勤務が難しいようでしたら、短時間のパート勤務から始めてみるとか、希望の職種ではなくても家から近いお店などを候補にしてはいかがでしょうか。OCDでは強迫症状によって外出のための準備に時間がとてもかかってしまうことがあります。そのことを考えると、家から近い勤務先は大きなメリットになります。接客が苦手な人は、品出しなどの職種を希望してみてはいかがでしょう。一方、人前にいるときのほうが強迫症状の影響を受けにくいようでしたら、販売やティッシュ配りの仕事から始めるということも考えられます。

アルバイト、契約社員、派遣社員など雇用形態や就労期間が、正社員と異なるものもありますが、仕事に従事すれば職業経験(キャリア)となりますので、まったく職業経験がないよりは、その後の就職活動で有利になる場合があります。

§4 治療費・収入・自立での優先順位

OCDによって、就労が困難になると、収入が減り、生活が困窮する場合があります。そこで、再び働くために症状を改善させるには治療が必要となります。薬物療法でしたら健康保険の範囲で治療が可能です。しかし、長期間、服薬を続けていくと、ある程度の治療費はかかります。治療費の支払いに困った場合は、自立支援医療制度(*3へ申し込むと、精神科への通院費や薬代の自己負担額が軽減されます。薬物療法を続けて強迫症状による支障が減り、その状態がしばらく続いたら、そのタイミングで社会参加を考えていくこともできます。

また、薬物療法だけでは効果が見られない場合、認知行動療法を受けることが考えられます。一般的なOCDへの認知行動療法は10~20回程度ですが、健康保険で正式に認められていないため、費用の合計が10万円以上と高額になります。お住まいの地域にOCDの専門家がいなければ、遠くの都道府県に治療を受けに行くことになるので、そのような場合は、さらに交通費や場合によっては宿泊費などの費用がかかります。

OCDなど治療が比較的長期に及ぶ病気では、治療費の工面をどうするかという問題があります。まして、退職を余儀なくされた場合は収入が得られませんが、その期間も最低限の生活費はかかります。このようなケースでは、治療中の生活費を家族が負担していることが多いようです。

治療がうまく行かずに、経済的支援をしてもらいながら生活を続ける場合と専門的な治療にかかる費用を工面して社会復帰できた場合とを比較してみましょう。費用のほかにも本人のストレスなどを比べ、将来に向けての決断をしてください。もちろん、一人で決めることは難しいでしょう。家族にも相談し治療の現状を知ってもらい、できるだけ有効な治療を受けることを最優先に考えてほしいと思います。

OCDは治療によって、症状が大幅に改善する人もいます。仕事や学業に復帰している人もいます。当サイトの過去の座談会でも、そのような体験談を紹介しているので、参考にしていただき、ご家族の理解にも役立てていただければと思います。そして、患者さんは、希望をなくさないでいただきたいと思います。


*注釈
(*1) 地域若者サポートステーション―――ニートやひきこもりなど、働くことへ悩みを抱えた若者(15歳~39歳)に対し、相談、支援を行っている。厚生労働省が、全国各地の団体に委託して行っている事業。
ニート・サポートネット(全国の地域若者サポートステーションの一覧)
http://www.neet-support.net/
http://www.meti.go.jp/policy/jobcafe/jobcafe_all.html
(*2) 就労支援センター―――障害者向け、若者向けなど、地域によってさまざまな名称で、就労のための相談や支援を行っている。障害者向けのセンターは、OCDでは精神障害者としての利用となるが、障害者手帳の有無など利用条件は施設によって異なる。
(*3) 自立支援医療制度―――精神疾患(てんかんを含む)によって、通院で治療を続ける必要がある人向けに、通院の医療費や薬代の自己負担額を軽減する国の制度。世帯の所得に応じて、自己負担額の割合は異なる。


*参考
[1] リー・ベアー[著]、越野好文、五十嵐透子、中谷英夫 [訳]「強迫性障害からの脱出」(2000年)晶文社
[2] Gail Steketee,PhD, Fugen Neziroglu,PhD, (2003) Assessment of Obsessive-Compulsive Disorder and Spectrum Disorders, Oxford University Press.
[3] John S. March、Daniel Carpenter、Allen Frances、David A. Kahn[著]、大野 裕[訳] 「エキスパートコンセンサスガイドライン 強迫性障害(OCD)の治療」(1999年) ライフサイエンス