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抜毛症と皮膚むしり症

抜毛症とは、自分で自分の毛を抜いてしまい、それをやめることができない病気です。皮膚むしり症は、やはり自らの皮膚をいじったりむしることを止めることが難しくなる病気です。こられは強迫症/強迫性障害(OCD)の患者さんにも多くみられます。やめたいと思いながら、繰り返してしまう点も共通しています。 昨年、精神疾患の国際的な診断基準である「DSM」が改訂され(第115回コラム)、以前は抜毛癖と呼ばれていたものが抜毛症と呼ばれるようになり、皮膚むしり症も精神疾患として認められることになりました。髪や皮膚をいじる癖がある人は多いのですが、そのような癖があっても、とくに問題を感じなければ心配することはありません。新しい診断基準にそって、癖と病気との違いを解説します。


目次
§1 抜毛症とは
§2 皮膚むしり症とは
§3 抜毛症・皮膚むしり症とOCDとの共通点
§4 抜毛症・皮膚むしり症とOCDとの異なる点
§5 対処と治療
§6 まとめ


§1 抜毛症とは

抜毛症は毛髪や体毛を抜きたくなり、実際に自らの手で抜いてしまいます。白髪やムダ毛を抜くのとは異なり、健康な毛を何本も何本も無理やり抜くので、抜いたあとが目立つようになります。「DSM-5」の診断基準[1]では、「繰り返し抜くことで、体毛が喪失してしまった部分がある」ということが、抜毛症の診断基準とされています。毛髪が喪失した部分があっても、円形脱毛症のように自然に抜けてしまうものや美容のためにムダ毛を処理したもの、また、髪を抜くわけではなくいじるだけでは、抜毛症には当てはまりません。

抜毛のきっかけやそのときの気持ちは人それぞれです。抜き始めるきっかけは、不安や退屈をまぎらわすためだったり、日常生活での緊張によるものだったりしますが、自分ではとくにきっかけが思い当たらないこともあります。抜くことが繰り返されるようになると、気になる毛を見つけて抜くまでに緊張の高まりを感じる人もいれば、抜いたときの快感や安堵感から、やめられなくなることもあります。

抜毛の対象となる箇所は頭髪に限りません。どの毛を抜くか、どのように抜くかは人によって異なります。通常は、頭髪や眉毛、まつ毛のように服に覆われていない部分の毛を抜くことが多いようです。


§2 皮膚むしり症とは

皮膚むしり症は、スキン・ピッキング(Skin-Picking)とも呼ばれ、皮膚をひっかいたり、はがしたりして傷つける行為を、ひんぱんに繰り返します。一般的なのは、顔、腕、手の健康な皮膚や皮膚の小さなデコボコした部分、ニキビや吹き出物、固く角質化した皮膚などをむしります。これらの対象部位はいつも同じ箇所というわけではなく、変化することがあります。

通常は、自分の爪を使ってむしりますが、ピンセットや毛抜きなどの道具を使ったり、歯で噛んだりすることもあります。皮膚むしり症と診断されるのは、「繰り返しむしることで皮膚が損傷し、病変になっている場合」です。皮膚むしりの行為をしたり、そのことを考えたり、やめようと苦闘している時間が1日のうち少なくても1時間以上費やされています。

たとえば、皮膚疾患があれば、その部分がとても気になって仕方がないかもしれません。しかし、気になるだけでしたら、皮膚むしり症には当てはまりません。一方、自分でもよくないとわかっているのに、皮膚病変を繰り返しむしっては傷つけ、悪化させているようなら、皮膚むしり症という可能性があります。また、リストカットなどの自傷行為で皮膚を傷つけても、それは皮膚むしり症ではありません。


§3 抜毛症・皮膚むしり症とOCDとの共通点

診断基準「DSM-5」によると、抜毛症と皮膚むしり症とOCDの共通する特性には次のようなものがあります。これらの特性はOCDと似ています。

●人に知られたくない
OCDと同様に、患者さんたちは症状として現れる行為を恥ずかしく感じています。したがって、他人にはわからないところで抜毛や皮膚をむしる傾向にあり、家族が気づきにくいことがあります。体毛が失われたり皮膚が損傷した部分を、衣類や化粧品で隠そうとします。一方で、OCDのように家族を巻き込むことはあまりありません。


●苦痛と支障
OCDと同様に、「癖」というレベルではなく、著しい苦痛を伴います。日常生活に支障をきたし、症状が重くなると、仕事や学校を含め外出を避けるようになります。その結果、勉強が妨げられたり、本来の役割を果たせなくなることがあります。

●コントロールが困難
OCDの強迫行為と同様に、自分でもやめよう、減らそうと試みるのですが、なかなかやめることができず、抜毛などの行為が繰り返されます。

また、抜毛症や皮膚むしり症とOCDを併発することは珍しくありません。OCDを抱える人とその家族が経験する割合は、OCD以外の人と比べて、高いといわれています。また、OCDとこれらの病気は、まったく別の病気というわけではなく、お互いに関連性があると考えられています。抜毛症・皮膚むしり症とOCDは、脳内の同じような領域が活発に活動しているという脳画像の研究報告があります。[2]

「DSM-5」では、抜毛症、皮膚むしり症は、強迫症/強迫性障害の関連疾患として位置づけられるようになりました。また、抜毛症や皮膚むしり症は、身体に焦点化された繰り返し行為(Body-focused repetitive behavior;BFRBs)として分類されることもあり、両方を経験する人も少なくありません。BFRBsは、身体の一部への行為にとらわれ、繰り返される病気で、ほかに、頬の内側や唇を噛む、激しいつめ噛み、髪を切ることが止まらないなどの症状も含まれます。

§4 抜毛症・皮膚むしり症とOCDとの異なる点

●感覚と感情
抜毛症・皮膚むしり症では、行為の直前や行為に抵抗しているときに緊張感があり、行為の最中や直後には、緊張が解放されるかのようにいくらかの快感があります。その点がOCDとは異なります。しかし、その衝動が落ち着くと後悔の念にさいなまれ、嫌な感情を生じる点はOCDと似ています。

●強迫観念がない
抜毛症や皮膚むしり症は、強迫観念のような考えに駆られて、行為を行いたくなるわけではありません。行為をしたいという衝動が生じてずっと続きます。あまり意識せずに、反射的に行為を始めてしまう場合もあります。OCDの人では、繰り返しする強迫行為をやめるために、「手洗いは10回で終了」などとルールを決めることがありますが、抜毛症や皮膚むしり症では、そのような儀式的なルールはほとんどみられません。

●場所と時間
OCDでは、汚れが気になる場所、何度も確認したくなる場所など条件が限定されることがあります。一方、抜毛症や皮膚むしり症の行為は、座って作業したり、テレビを見たり、パソコンを操作したり、ベッドに寝転がりながら行うことが比較的多いようで、場所や時間が限定されているわけではありません。だからこそ悪化するといつでもどこでも、行為をしないではいられません。

§5 対処と治療

これらの病気は、日本では存在そのものが、一般的にはあまり知られていないので、周囲から誤解を受けることもあると思われます。症状が重くなると、皮膚が損傷し病態を呈していても、本人はやめることが難しいのです。家族から注意されると、行為を隠れて行うようになり、悪循環にもなりかねません。したがって、周囲の人には、病気について理解してもらい、患者さんの経過を見守ってもらえるとよいでしょう。

抜毛症も皮膚むしり症も、診断、治療は精神科の対象となります。これらの病気の治療について簡単にご紹介します。しかし、治療についてはまだ標準治療というものが確立されていません。[2]

治療法として考えられるのが、精神療法の一つである認知行動療法と薬物療法です。

1)認知行動療法(CBT)
認知行動療法の「認知」とはその人の考え方や受け取り方などをいいます。認知行動療法では自分では気づきにくい考え方の癖を気づかせ、問題となっている行動の修正を目指します。そのような認知行動療法にはさまざまな技法がありますが、抜毛症や皮膚むしり症の治療では、認知よりも行動に働きかける技法が主となります。また、集団ではなく、次に説明するハビット・リハーサル訓練のように個別の認知行動療法が行われます。

■ハビット・リバーサル訓練(HRT)
この訓練は問題となる癖(ハビット)や行為と逆の行動をしていくという技法で、抜毛症、皮膚むしり症、チック、吃音のような神経性の癖や疾患の治療で用いられます。HRTには、さまざまな要素が含まれますが、次の3点が主軸となります。[2,3]

気づきの訓練(Awareness Training)
抜毛や皮膚をむしる行為を始めたことに気づけるよう意識を向けます。さらに、行為をしそうになるときに特徴的な気分や感覚がないかを自分で気づけるようにします。そして、そのように気づいた結果を記録します。普段は、意識せずに行っていることに対して、文字などで表現・記録することが有効な場合もあります。また、行為をすることによって得られるよい面と悪い面を書き出すことも提案されています。
対抗反応訓練(Competing Response Training)
抜毛や皮膚をむしりたいという衝動が起きそうなときに、それに逆らった行動(拮抗行動)をとれるように練習します。手のひらをギュッと握ったり、授業中ならペンを握ったり、脇を固く閉じて鍵がかかってしまったようにしたりして、数分間以上続けます。拮抗行動は、周囲の人には、わかりにくい目立たない動作なので、授業中でも授業に支障がなく、また、パソコンの作業中でも、テレビを見ながらでもできます。最近では、目立たずにおしゃれなデザインの指サックなども売っています。これらを利用して、髪や皮膚への行為をやりにくくする方法もあります。
周囲のサポート(Social support)
治療期間中、患者さんが上記の訓練をしているときに、家族は否定的な態度をとることなく、応援してあげましょう。

上記の①から③を何週間か続け、それまでの問題行動が、他の習慣に置き換わり、それに慣れていくことを目指します。そして、治療の進捗状況を記録していきます。

認知行動療法では、アセスメント、セルフモニタリングといって、日常生活で症状が起きやすい状況、時間帯、そのときの感情などを患者さん自身が調べることで、対処に役立てる方法があり、それをハビット・リバーサル訓練に加えて行うこともあります。

また、海外の専門家は、アクセプタンス・コミットメント・セラピー(ACT)(*1)や弁証法的行動療法(DBT)(*2)といった認知行動療法の新しい技法も研究しています。

2)薬物療法
抜毛症や皮膚むしり症に対する薬物療法は、現在のところ効果が認められていません。残念ながらOCDのように治療効果が確認されている薬がまだないのです。それは、脳内のどのような物質が発症に影響しているかよくわかっていないためです。海外では、OCDでも使われるクロミプラミンやSSRIを抜毛症の患者さんに使用したところ有効だったという報告も少数ですがあります。ただし、効果が定かであるといえる段階ではありません。

ほかの精神疾患を併発している人では、併発疾患の治療薬を使用することがあります。また、皮膚むしり症によって皮膚の病状が悪化して、皮膚科での診療が必要なケースがあります。その場合、外用薬など皮膚科の薬が使われることがあります。

§6 まとめ

アメリカでは、抜毛症や皮膚むしり症の患者さんを支援する団体があり、専門家とともに、啓発活動や治療者の育成などを行っています。そして、これらの病気が、診断基準「DSM-5」でOCD関連疾患として正式に認められ、その基準が明確にされたことを契機に、さらに多くの人に知られ、治療法が普及していくことでしょう。

日本では、抜毛症や皮膚むしり症の研究はこれからといった段階ですが、これらの病気の症状で悩んでいる人は、ある程度の割合はいるはずですし、今後、より多くの人の理解と、治療法の確立、普及が望まれます。


*参考
[1] American Psychiatric Association[著]、日本精神神経学会[日本語版用語監修]高橋三郎、大野裕[監訳]「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」医学書院(2014年)
[2] trichotillomania learning center「Expert Consensus Treatment Guidelines for trichotillomania, Skin Picking and other Body-focused repetitive behaviors」(2011年)
[3] James Claiborn, Cherry Pedrick[著] The Habit Change Workbook: How to Break Bad Habits and Form Good Ones, New Harbinger Publications,Inc.(2001年)

*注釈
*1 アクセプタンス・コミットメント・セラピー(ACT)―――「今」の状態・状況を受け入れ、嫌な感情を抑制する回避行動や、思考と現実や自己を混同する行動を減らし、価値のある行動への動機づけを高めて、実際に行動に移していく(コミットメント)をしていく、認知行動療法の新しい考え方です。
*2 弁証法的行動療法(DBT)―――情動が不安定で、衝動的、自己破壊的な行動に向かいやすい精神症状に対し、極端によい悪いの二者択一の思考に陥らずに、感情調節やありのままの自分を受容することをトレーニングしていく認知行動療法です。