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OCDコラム

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実際の体験から探る~薬物療法、効果のポイント

薬物療法を体験したOCDの患者さん3名にインタビューをしました。こちらの3名はいずれも女性の方ですが、症状の内容や彼女たちを取り巻く状況、改善の度合いはそれぞれ異なります。3名の方の体験を聞くことで、今後の皆さんのOCD治療に何らかのヒントになるものがあればと思います。 また、第122回コラムでも紹介したように、抗うつ薬の一種であるSSRIを単独で使った場合、効果が得られる人はおよそ40~60%といわれており、なかには効果が現れない人もいます。しかし、今回お話をうかがった3名の体験からは、服薬の方法をきちんと守ること、社会参加など気持ちを病気以外へ向けること、認知行動療法を併用するなど、薬物療法にプラスしてちょっとした注意や気分転換で強迫行為の悪循環を減らしていくことができると教えてもらいました。


目次
事例1 医療機関を変えて強迫症状が改善
事例2 きちんと服薬することで効果が得られた
事例3 薬にプラスして生活のリズムを整え、社会参加
まとめ


注意



事例1 医療機関を変えて強迫症状が改善

ゆうこさん(仮名)女性32歳

 症状の経緯 
ゆうこさんは長女を妊娠していた30歳のときにOCDを発症しました。飼い犬のフンの処理など汚いものを扱った後、お腹の子に何かあってはいけないと気になるようになり、洗浄の強迫行為が増えていきました。当時は、夫婦二人暮らしでしたが、2カ月の水道代が2万円になるほどでした。出産の際は、里帰りをしていったん強迫症状は和らいだのですが、子どもが1歳になり、外を歩いたり何かを触ったりするようになると、「子どもが何かに触れた指をしゃぶることで、病気になるのではないか」と気になり始めました。そのため、外出のときには除菌シートを持ち歩き、夜中でも家の汚れが気になると掃除をするように強迫行為が増えていきました。

 診療状況 
近くのクリニックを受診し強迫性障害と診断されましたが、日常生活に支障をきたしていたため実家に戻ることになり、実家近くの総合病院の心療内科に転院しました。そこでは、抗うつ薬ではなく抗精神病薬が処方されました。服薬を続けても強迫症状に効果は見られないばかりか、イライラしやすくなり、家族に当たったりするようになりました。主治医はあまり話を聞いてくれずどうしたらいいのか困り果てたゆうこさんは、自助グループに問い合わせ、そこで知った医療機関へ転院しました。

その医療機関で、ゆうこさんはこれまでの経緯を話した後、「治りますよ」という医師の言葉を聞くことができました。そして、SSRIが処方されました。最初、少量から始め、週に1度の診察のたびに少しずつ増量していきました。その医療機関ではカウンセリング・認知行動療法も受けることになりました。当初、Y-BOCS(エール・ブラウン強迫観念・強迫行為尺度というOCDの評価尺度)では、ゆうこさんのOCDの症状は重度を示していました。

服薬を始めて10日ほど経った頃、実家の母親からは「少し落ち着いてきた」と言われたそうです。ちょっとしたことでも不安になってしまう状態が続いていたため、本人の自覚はありませんでしたが、ほかの人の目からは変化していたようです。

服薬して2週間を過ぎた頃から、気になりだすとずっと不安になっていたことが、さほど不安にならなくなりました。この頃、カウンセリングでは心理教育を受けていました。ただし、症状の詳しい状況を調べていた段階で認知行動療法の具体的な課題にはまだ取り組んでいませんでした。そのことから、不安の軽減は薬の効果が現れてきたと考えらえます。SSRIを最大量まで増量し、その後はその量で服薬を続けています。

転院したクリニックでは薬物療法と並行して認知行動療法も受けることになりました。曝露反応妨害(E/RP)の課題を行うようになると症状の改善はさらに進みました。SSRIを服薬し始めてから1カ月ちょっとで強迫症状のほとんどが気にならない程度まで改善できました。

 コメント 
・OCDの治療では、SSRIだけでは効果が見られない場合に、抗精神病薬を少量加えることがあります。抗精神病薬は統合失調症に用いられることが多い薬で、一般的なOCDの治療では抗精神病薬のみを処方しても効果は現れにくいものです。ただし、OCDでも他の疾患との区別が難しい場合があり例外もあります。通常のOCDでは、最初はSSRIを使用することが推奨されています。
・転院した医療機関では、医師もカウンセラーもOCDへの理解が深かったため、ゆうこさんの思いが受け止められたことと薬の処方がゆうこさんの症状に合ったものと思われます。それまでのイライラ感がなくなり、SSRIの効果が感じられた段階で、心理教育が行われ強迫症状の悪循環を断ち切りやすくなったことが、短期間で改善できたことにつながったと考えられます。通常、強迫症状の改善には薬を飲み始めてから早くても数カ月以上かかります。


事例2 きちんと服薬することで効果が得られた

くるみさん(仮名)女性40歳

 症状の経緯 
くるみさんは、短大を卒業後派遣の仕事に就きました。派遣のため、2社、3社と短期間で職場が変わり、ストレスを感じることも多かったそうです。3社目に勤務していた23歳のときに、書類を確認する作業に非常に時間がかかるようになり、仕事のペースが遅くなっていきました。上司からは仕事をさぼっているのではないかと勘違いされて、別の部署へ異動になりました。次第に会社に居づらくなり、欠勤が続いた後、退職することになりました。この頃くるみさんは、OCDという病気を知りませんでした。しばらく休養をとり、確認強迫の症状は和らいだように思えましたが、転職したスーパーでレジの仕事をするようになったところ、強迫症状は依然残っていました。

 診療状況 
スーパーで働いていた頃に、医療機関を受診し、強迫神経症という病名を知りました。SSRIを服薬しましたが、きちんと服用を守っていなかったこともあり、効果は感じられなかったそうです。

その後、強迫症状の内容が、仕事時の確認から性行為に伴う感染症恐怖へと移っていきました。主治医が変わり、3、4年前から別のSSRIへ薬も変わりました。それを機に、しっかりと毎日同じ時間に決められた量を飲むようにしました。

その結果、「自分が心配していること(感染への強迫観念)は、現実ではなく、病気なんだという自覚が出てきた」そうです。現在も強迫観念がすっかりなくなったわけではありませんが、服薬を続けながらフルタイムの仕事をしています。「自分は負けずぎらいなところがあるので、不安を消す薬ではなくて、抗うつ薬のようにやる気を出す薬は、合っているかなと思う」と話してくれました。


 コメント 
・くるみさんが発症した15年以上前には、あまりOCDという病気は知られていませんでした。そのため、当時のOCDの患者さんたちは、どうしたらよいか戸惑った人も多かったのではないかと思います。
・SSRIは、毎日、決められた量の薬を決められた回数、服薬する必要があります。
・くるみさんのケースでは、一度仕事を離れて休養しても、復職すれば確認強迫の症状が戻ってしまったことから、休養だけでは強迫症状の改善は難しいことがわかります。


事例3 薬にプラスして生活のリズムを整え、社会参加

さちこさん(仮名)女性48歳

 症状の経緯 
20代の頃から、不安や抑うつを感じやすい面はありましたが、就職を機に一人暮らしをするようになりました。24歳頃から汚れがとても気になりだし、手洗いを頻繁にするようになりました。
外では比較的平気だったのですが、自宅ではいろいろな物が汚れている気がして触れなくなり、固形石鹸を1週間以内で使いきってしまうほど手洗いが頻繁になりました。

 診療状況 
15年前の33歳の頃、頭痛がひどくなり、精神科のクリニックを受診したところ、うつ病と診断され、SSRIを処方されました。それまで精神科の薬を飲んだことはありませんでしたが、頭痛はすぐによくなり、気分的にも楽になりました。しかし、強迫症状に関しては変化が見られませんでした。最初の1週間はとにかくよく寝ていたそうです。その後も服薬を続けています。何年もすると、自分ではどこからが薬の効果なのかわからなくなっていることがあるといいます。

さちこさんは、SSRIを朝1錠、夜2錠、ほかに抗不安薬を飲んでいます。ときどき朝の服用を忘れてしまうことがあったそうですが、医師に「しっかり飲まないと効かない」と言われ、それからは欠かさずに飲むようにしています。※SSRIは薬の種類によって、1日2回服用するものと、1日1回服用するものがありますので、主治医の指示にしたがってください。

さちこさんは、薬を飲むだけではなく、睡眠時間や生活のリズム、食事にも気をつけ過剰にストレスを溜めないようにしていきました。日常生活の見直しとともに社会的な活動や自助グループにも参加するようになっていきました。社会的な活動を通して、感謝の気持ちと人の役に立つことの大切さを学び、それも症状の改善に役立ったといいます。

現在も不潔/汚染の強迫症状は残っていますが、介護の仕事に就き、人より除菌用品を使ってしまうものの、おむつ交換も行っています。ただし、精神症状に波があり、不調なときには遅刻や欠勤をしてしまうのですが、職場の理解もあり仕事を続けています。

 コメント 
・SSRIが強迫症状に対する効果が見られない場合でもうつ症状に効果が見られるケースがあり、それだけでも精神的には楽になります。
・SSRIによって強迫的な気分や衝動がいくらかでも和らいだタイミングで強迫行為を減らしていけると、強迫観念と強迫行為の悪循環から脱け出せます。そのタイミングでうまく治療ができない場合、強迫症状は残ってしまうこともあります。
・さちこさんは、自ら生活のリズムを整え、社会参加の機会を増やすことで、次第に社会復帰を実現させていきました。自宅に引きこもっている時間が多いと、強迫行為をする時間が増え、症状も悪化しがちです。一方、さちこさんの場合は外出する機会が増えたため、強迫行為をする時間もなく、結果、改善効果が得られたと考えられます。


まとめ

今回のインタビューにご協力いただいた3名の方は、いずれも不潔・汚染への強迫観念がありました。また、薬物療法への不信感が比較的少なかったという点が共通しています。

OCDの治療に用いられるSSRIというタイプの薬の強迫症状への効果は、人によって感じ方が異なります。明確に強迫行為の回数が減ったということはなくても、なんとなく気分がよいほうに変化したと感じたタイミングで、不安から強迫行為をするという悪循環と向き合い、減らしていくことで、強迫症状の改善がより定着していきます。

ガイドライン [1]では、薬物療法とともに認知行動療法を併用することが推奨されていますが、認知行動療法が受けられない場合でも「心理教育」や「生活リズムの見直し」「社会参加の機会を増やす」などを取り入れることで、薬物療法の効果を補うことができます。

OCDの薬物療法について、イギリス[2]では専門家向けの治療ガイドラインが作成されています。このガイドラインについては、日本の専門書[3]でも紹介されています。イギリスのガイドラインでは、患者さんの状況に応じた投与方法が確立されています。当サイトの「OCDの治療法」もそれに沿った内容を紹介しています。最初はSSRIを単剤で少量から始め、徐々に増やし、十分な量と期間を服薬してもらうことが標準的な投与方法となります。

OCDの薬物療法については、個々人の状況によって効果の現れ方は変わってきますし、処方も工夫が必要となる場面もでてきますが、日々の治療がOCDの改善につながっていくことを願っています。最後になりましたが、取材にご協力くださった3名の方に心より感謝いたします。


*参考
[1] John S. March , Daniel Carpenter , Allen Frances, David A. Kahn[著], 大野 裕 [訳] 「エキスパートコンセンサスガイドライン 強迫性障害(OCD)の治療」ライフサイエンス (1999年)
[2] National Institute for Health and Care Excellence. National Institute for Health and Clinical Excellence (2005年)
[3]上島 国利 (編集代表), OCD研究会 (編集協力)「エキスパートによる強迫性障害(OCD)治療ブック」星和書店 (2010年)