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金生先生インタビュー(全3回) 子どものOCDとは? Vol.3
治療編 今後のOCD治療

東京大学医学部附属病院
こころの発達診療部
金生 由紀子先生

子どもの強迫性障害(OCD)について、この分野にくわしい、東京大学医学部附属病院こころの発達診療部の金生由紀子(かのう ゆきこ)先生に、3回にわたってお話をうかがってきました。インタビューの最終回では、OCDの子どもへの治療についてのお話を中心に、児童精神科の現状と今後の展望、溶連菌という細菌が感染することによってOCDに似た症状を引き起こすパンダスという疾患についてお話いただきました。


目次
§1 子どものOCDへの薬物療法
§2 精神療法について
§3 児童精神科での施設と人材育成の問題
§4 パンダスによる強迫的な症状
§5 最後にメッセージ


§1 子どものOCDへの薬物療法

●一般的に大人が通う精神科のクリニックに比べて、子どもさんを対象にした精神科では、患者さん一人あたりの診察時間がかかるように思うのですが、いかがでしょうか。

金生:はい。本人だけではなく、ご家族にもOCDという病気を理解していただき、サポートをするためにはどうしても時間がかかります。

また、OCDへの薬物療法では、お子さんに対してもSSRIあるいはクロミプラミンを含めてセロトニン再取込阻害薬(SRI)*1を使うことがあります。これらの薬は、一定の効果が得られる場合も多いのですが、薬剤の特性や服薬の注意点の説明に時間を要します。

強迫症状を抱えていて、うつ状態になる人は少なくありません。24歳以下の若い患者さんに対して、抗うつ薬を処方する場合、死にたいという気持ちを助長することがありえるということも最初にご説明します。薬によって期待できる効果とリスクの両方を患者さんやご家族に理解していただけるよう、根拠(エビデンス)を示して、わかりやすく説明するようにしています。また、なかには、精神科の薬を飲むことに抵抗がある人もいますので、まず服薬を受け入れてもらえるかという問題があります。

子どものOCDでは発達的なアンバランスを抱えていることがあり、その場合、典型的なOCDの人と比べて、SSRIやSRIといった薬だけで治療がうまくいくケースは少ないように思います。その場合、チック症状に対してとか自閉症スペクトラムの人がイライラ感を増した症状に対して使う、新しい抗精神病薬*2であるリスペリドンやアリピプラゾールが効くこともあります。

また、思春期には、強迫症状というよりもチック症状が強いタイプで、自分を叩かずにはいられないとか、物を壊さずにはいられないというような強い衝動が起こることがあります。そのような場合は、衝動性のコントロールを目指して気分安定薬を使うこともあります。典型的な双極性障害ではなくても、気分安定薬*3を使用したほうが、複数の抗精神病薬を使用するよりも気分の安定が得られやすいと判断した場合は、そのように調節をすることもあります。

お薬による治療では、多剤・大量はできるだけ避けたいと思いますが、1種類の薬だけで効果が得られるとは限りませんので、本人にも親御さんにも薬の説明をしっかりして、相談しながら調節していきます。

「ちゃんとお薬を飲んで、どうだったか次回に教えてね」と診察の際に伝えて、その後の経過をモニターします。子どもでは、SRIで効果がみられる率が、おそらく大人より少ないですし、子どもだけでなく親にも、疾病教育を行い、お薬を相談しつつ調節していくので、診察に時間がかかるというのはやむを得ないことだと思います。

●精神科のお薬を低年齢のお子さんに飲ませることに抵抗がある親御さんもいると思うのですが、そのあたりはいかがですか。


金生:年齢が低ければ低いほどできるだけお薬は使わないように心がけています。しかし、状態によっては、小学校の低学年くらいでも使わざるを得ないこともあります。不安が非常に強かったり、衝動性が強かったりした場合、薬でコントロールします。そのようなときは、一時的に抗精神病薬とか抗不安薬*4などを使うこともあります。実際に、お薬を増やしていくことでよくなる人もいるし、逆の人もいます。また、お薬を徐々に減らしていっても、止めると悪化して、ほんの少量を飲むことで症状が安定したなど、調節していくうちにわかってくることもあります。

われわれ医師は、薬を処方したら、その後の様子を見ながら少しずつ増やしたり減らしたりして、できるだけ誠実に患者さんやご家族と相談してやっていかなくてはなりません。

これまで、私はOCDの幼児に対して薬を出したことはありません。幼児の場合は、どちらかというと反応性と考えられる強い不安があって、その不安を周りの対応も含めてどうやって鎮めていくかという対応でよくなっていった子が多かったためです。


§2 精神療法について

●こちらの病院には心理士さんもいらっしゃるのですか? また、チームで対応するのでしょうか。

金生:はい。心理士もおります。私たちのところは大学病院なので、一人の患者さんを長い期間にわたって診続けるというのは難しく、また、認知行動療法についてもがっちり行えるとは限りません。ご家族にOCDなどの病気の特徴をわかってもらったり、ご家族の気持ちを受け止めたりするための面談を、心理士さんに頼んで、5回とか10回くらいを目安に相談しながら行うことはあります。

●認知行動療法は、OCDのお子さんに対してはどうなのでしょう。

金生:お子さんに対しても認知行動療法を行うことはあります。当病院の心理士が行うこともありますが、時間枠が限られているので、場合によっては、同じ東大の心理教育相談室(下山研究室)へご紹介し、対応してもらうこともあります。下山晴彦先生がおっしゃるには、典型的なOCDならば、認知行動療法の基本に準じて行えばいいのですが、発達のアンバランスがある人や統合失調症に近い強迫症状を抱えた人へ精神療法を行う場合には工夫が必要であり、私たちもいっしょに相談し合いながら行うこともあります。


§3 児童精神科での施設と人材育成の問題

●OCD患者さんでもお子さんとなると、入院できる病院が少ないように思うのですが、実際にはいかがでしょうか。

「児童精神科が増えていくことが望まれます」


金生:OCDやチックを専門的に診てくれる病院はあまりありません。入院施設というとさらに少なくなります。高校生でしたら、大人と同じようにOCDを診てくれる医師がいる病院に入院をお願いすることができるのですが。中学生までは、その年齢の子どもを受け入れてくれる病院を紹介します。

最近、首都圏の病院で児童の精神科病棟が少しずつですが、増えてきました。そういう病院ができたおかげで児童精神科の医師が働く場所も増えてきました。児童のOCDに関する専門医はいないかもしれませんが、発達のアンバランスや親子関係のゆがみも含めて考えてもらえるといいと思い、そのような病院へ入院をお願いすることがあります。

●児童精神科が今後増えていくためには、社会的にどのような制度や設備が必要だとお考えですか。

金生:先ほど、児童の精神科病棟が増えてきたと申しましたが、それは入院加算がつくようになったことも影響していると思います。子どもの場合、外来診療も大人の患者さんに比べてどうしても時間がかかるのですね。そのため、精神科外来での診療は、子ども(20歳未満)の場合、初診から1年間だけは、保険点数が少し高くなります。しかし、1年で診療が終わるとは限らず、何年も通院されてきている人もいますので、初年度以降も加算をつけてほしいと思います。今後、保険診療の制度のなかで、十分な診療報酬がつき、経済的に成り立つことが必要です。そうすることで、児童精神科を志す医師も増えてくるのではないかと思います。

もう一つは、児童精神科医を育てていくシステムが必要です。当院は東京大学医学部の附属病院で、病院には私がおりますこころの発達診療部という診療部門があり、同時に、ここは、こころの発達医学分野という大学院の講座にもなっています。このように児童精神科医を育てるシステムができています。しかし、本当にきちんとした児童精神医学の講座というのは、日本ではほとんどありません。今後、医学部のある大学には児童精神医学講座を開設し、児童精神科医をきちんと育てるシステムをつくることも必要です。そして、そこで学んだことを、実際の診療に活かせて、経営的にも成り立っていくという、大きくはその二つが大事ではないかと思います。このようなシステムを整えることで、病院としては、児童精神科の外来を行えるようになり、患者さんも、児童精神科医にかかりやすくなります。入院が必要な児童もいますから、先ほどの入院加算がもう少し充実してくるといいと思います。


§4 パンダスによる強迫的な症状

●PANDAS(パンダス)(*5)という疾患があります。これは子どもに強迫的な症状が急激に現れるもので、海外では話題になることがありますが、日本ではどうなのでしょうか。

金生:昨年秋に、アメリカ児童青年精神医学会に出席してきたのですが、「パンダスって実際はどうなんだろう」と、あちらでも疑問に思っている人が多いように感じました。溶連菌感染*6に限定できるのかどうか、つまり溶連菌だけでこれほど広く起こるものなのか、疑問視されています。一方で、季節の変化とかアレルギー性の問題のように免疫のアンバランスが、神経の活動に作用して、それによってチックや強迫がひどくなることもあり得るのではないかと考えている人もいました。

もちろん、日本の児童精神科医の間でもパンダスの存在は知られていますが、そんなに積極的には考えられていないと思います。

私は、患者さんがいらしたとき、OCDやチックに関する質問をする前に「高い熱は出ませんでしたか」「体調が悪くなったことはないですか」とお聞きして、もし高熱が出たということでしたら、「そのとき、病院で溶連菌感染症とか、なにか感染症といわれましたか」とお聞きするようにしています。ただ、日本の場合、感染症と診断されれば、抗生物質をすぐに使うので、溶連菌感染が長く続くということはあまりないと思います。そういう点からも、日本ではパンダスが問題になりにくいのではないかと思います。私は狭い意味でのパンダスというのはどうなのかと思いますが、免疫と精神科の症状の関連についてはじっくり考えていく必要があると思います。


§5 最後にメッセージ

●最後にOCDを抱えているお子さんとご家族にメッセージをお願いします。

金生:OCDの症状に悩まされてとても苦しい思いをしているかもしれませんが、ずっと今の苦しい状態が続くわけではないですよ。すぐによくなるとは限らないし、いろいろ大変なことがあるかもしれないけれど、ずっと今の状態が続くわけじゃありません。工夫して病気と折り合いをつけていくなかで、自分のやりたいことが見つかって、少しずつできることが増えていって、必ずいい方向に行きますよ。

「必ずいい方向に行く」というのは、すぐに全部が解決するということではないんですけれど、前向きに対処していればいい方向に行くと思います。

長時間にわたって、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。


*注釈
*1 セロトニン再取込阻害薬(SRI)――抗うつ薬の一つで、脳内の神経伝達に用いられるセロトニンが、神経から放出された後も減らないように調整することで、抑うつや強迫の症状を改善すると考えられている。SRIは、SSRIと古い世代のSRIであるクロミプラミン(商品名アナフラニール)の総称である。(参考⇒OCDの治療法>OCDの薬物療法
*2 抗精神病薬――強い不安や興奮を鎮め、統合失調症などの症状である、幻覚や妄想を軽減する作用もある薬。
*3 気分安定薬――うつ状態、躁状態といった気分の波が大きいときに、その変化を調整する薬。典型的な双極性障害(躁うつ病)ではなくても、気分が不安定な人に使用されることがある。
*4 抗不安薬――神経に働きかけ不安感や緊張を和らげる薬。
*5 パンダス――小児自己免疫性溶連菌感染関連性神経精神障害と訳される英語Pediatric Autoimmune Neuropsychiatric Disorders Associated with Streptococcal Infectionsの略称がPANDASである。小児(通常3-14歳)に発症し、強迫性障害(OCD)、チック、自閉症(感覚に過敏)、注意欠陥多動性障害(AD/HD、集中困難など)と似た症状を呈することがある。PANDASでは、このような症状が突然現れるが、その前に発熱やのどの痛みがあり、その後短期間で激しくなるのが特徴である。強迫症状のほか、頻尿、運動や作業する能力の急激な低下、食欲の変化が生じたり、パニックや悲鳴をあげたりすることもある。通常、体内に異物や細菌が侵入すると、免疫システムがそれらを攻撃し排除しようする結果、発熱などの症状が現れるが、PANDASでは、その免疫システムが誤って、正常な中枢神経を攻撃してしまうため、OCDに似た症状が現れる。
*6 溶連菌感染――化膿レンサ球菌という細菌に感染すること。溶連菌感染による病気には、急性咽頭炎・急性扁桃炎、リウマチ熱などがあり、発症時の症状は、のどの痛みや腫れ、発熱、吐き気、嘔吐、頭痛など風邪に似ている。治療には、抗生物質など抗菌薬などが用いられる。

*参考
Michael Jenike, MD and Susan Dailey, mom and advocate,’ Sudden and Severe Onset OCD (PANS/PANDAS)-Practical Advice for Practitioners and Parents’. IOCDF web site