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金生先生インタビュー(全3回) 子どものOCDとは? Vol.2
発達段階に応じた親の対応

東京大学医学部附属病院
こころの発達診療部
金生 由紀子先生

前回に続き、子どもの強迫性障害(OCD)やチックといった精神症状にくわしい東京大学医学部附属病院・こころの発達診療部の金生由紀子先生へのインタビューをお届けします。今回のコラムでは、OCDのお子さんへの家族の対応や、学校におけるいじめなど周囲の人との間で生じるさまざまな出来事への対応について伺いました。


目次
§1 親への説明と理解
§2 本人の気持ちを受け止める
§3 巻き込まれへの対処
§4 トラウマ、いじめ、不登校への対応


§1 親への説明と理解

●OCDのお子さんの診察では、保護者へのアプローチが必要な場合はありますか。

金生:まず、お子さんでは、発達的にアンバランスなところがあったうえに、強迫症状がでてくることが多いので、どこからが病気なのかを判断するのは難しいです。パーソナリティの形成がされてから発症してくる大人の方のOCDとは大分違います。

保護者へのアプローチとしては、基本的にOCDという病気をわかってもらう、理解して安心してもらうことが大事ですから、病気とか障害を科学的に説明することは必要ですが、ただそれだけではなく、「この子はこういう特徴があるから、こういうふうに接すればいいんだ」と、お子さんのことをうまく受け止められるところまで説明することが大事です。

たとえば、お子さんがそれほど重度ではない自閉症スペクトラム障害*1だとします。『DSM-Ⅳ-TR』でいうと特定不能の広汎性発達障害*2という状態の場合、普通に会話はできるのですが、ちょっと興味が偏っていて、ちょっと空気が読めなくて、でも、普通に見えるから余計にいじめられているとします。さらに、その頃からお子さんが不安になりやすく、繰り返し儀式的な行動を行うようになってきたとします。すると、親は、そのおかしな行動を「友だちからいじめられたせいだ」とだけ考えてしまうことがあります。その背景に発達障害があるとは思わないのです。

そういう場合は、「確かにいじめられたことがきっかけになるようです。本人も大変でしたが、お父様お母様も大変ですね」としたうえで、「本人はもともと周囲の空気を読むのが苦手なところがあり、これまでもいろいろと暮らしにくかったと思います。本人が悪いわけではないのにいじめられてしまって、そして、不安が強くなり強迫症状になってきたんじゃないですか」と、われわれがわかる範囲のストーリーをお伝えします。

そのときに親御さんが、「この子はちょっと発達のアンバランスがあるから、こういうふうに話してあげたほうが、親の言葉がわかって安心するのですね」と、納得していただくように説明します。「言葉だけでは頭に入らないようなら、文字に書いて提示するとよいですよ」などのアドバイスをすることもあります。

診断というのは病名を伝えるだけではなく、これからできることとセットにして、親御さんに丁寧に伝えることが大事だと思います。先ほど申し上げたストーリーのお子さんの診断でも、病名を伝えるだけでは、親御さんもどう対応してよいのかわからなくなります。

また、自分にきびしく考える傾向のある親御さんだと、自分たちが不適切に育てたから病気になったのではないかと悩んでしまうこともあります。そのような場合は、いまからでもできることを具体的な対応とともに説明して、ご家族が自分を責めたり、子どもを責めたりしないで、一緒にやっていこうと納得してもらえるようにします。ご家族がどのようにこれまで生きてきて、お子さんにどんな期待をしていたのか、あるいは期待してこなかったのか、そういう気持ちを聞きながら、病気のことやお子さんのことをわかってもらえるように説明します。このような理解は患者さんの年齢が低ければ低いほど、重要です。

学校生活や不登校の問題があれば、担任の先生などキーになる方の理解が大事です。

また、ご家族に対して強迫症状の巻き込みがあると、きょうだい関係が悪くなることがあるので、ほかのきょうだいの気持ちもサポートしてあげるとよいでしょう。家族間のもめごとがさらに本人のストレスになることもあるので、その辺のカバーも必要です。同時に、ほかのきょうだいもストレスを感じることがあるので、そちらについても注意が必要です。巻き込みということを考えると、ご家族全員に患者さんの病気や症状についてわかってもらうことが大切です。

強迫症状や生活全般に対してすごく神経をとがらせてお子さんに厳しくあたってしまったり、反対に、妙に優しくして巻き込まれたりと、さまざまな方がいらっしゃいます。親御さんの特徴や性格を踏まえながら、何とか少しずつ調節する方法を考えていくことが必要かと思います。医師による外来診療だけでは十分ではなくて、心理士の人にお願いをすることもあります。

●発達障害という病名を告げられると、病気ではなく「障害」なのだから治らないと困惑する人もいるようです。だから、いまのお話を聞いていて、丁寧に説明してあげたり、いまからでもできることを提示してあげることはとても大切だと思いました。

金生:発達障害全体として、知的な遅れがなく、典型的でもない辺縁の人*3が結構いることがわかってきています。そういう方は、本人の感じ方とか脳の特性は標準的な方と同じにはならないが、日常生活での障害が続いていくとは限らずに、将来、変化することもあるとわかってきました。「こだわりが強い」とか「空気が読めない」という傾向は一生変わらないけれど、多少は自分で調節ができるようになることもあります。また、それらの特性を生かせる場でしたら、「こだわり」がむしろプラスになることもあり自分の夢をどんどん追求して成功することもあります。

障害の程度によらず人それぞれの幸福というものがあります。標準的な人とまったく同じにしようと考えないことも必要です。障害と個性は表裏ですから、自分が苦しかったり、人に多大な迷惑をかけたりしなければ、それはそれでいいじゃないかという、本当の意味での多様性に気がつけるといいのです。社会生活をする上では、多少は調節したほうが生きやすくなりますが、すべて調節することはありません。


§2 本人の気持ちを受け止める

●思春期には症状が激しくなることもありますが、そのあたりはどうなのでしょう?

OCDのお子さんは強迫症状以外にも、自分を理解してもらえないことでも苦しんでいると語る金生先生


金生:程度の問題だと思うのですが、強迫の症状が強く、家族を巻き込んで怒りなども非常に強くなってしまったら、外来では対応できないこともあります。当院の精神科病棟は基本的には大人の患者さん対象ですので、入院が必要な場合、子どもの病棟がある病院にお願いすることもあります。

10歳以上では、本人も強迫症状のことがある程度わかるようになってくるので、「自分はこんなに頑張っているのに、親はなんなんだ!」という憤りのような気持ちが出てくることがあります。基本的には、「なんなんだ!」という気持ちを受け止めてあげることが大切だと思います。強迫症状も苦しいし、それをうまく表現できない苦しさも抱えていることを理解してあげることです。

病気を含めて本人がこれまで抱えてきた特徴をよく理解して、適切な診断を心がけます。そして、「だから困っているんだよね」と共感していきます。すると、本人は「僕が困っていることについてわかってもらった」と感じます。このような配慮は大事で、親御さんに対して病気の特徴を説明してから、病気を踏まえてお子さんの気持ちに対応するとよいと話しています。親からしたら、「飛び飛びにしかも短時間しか会わない先生だからできるので、四六時中一緒にいる自分はできません」というかもしれませんが、このようなことが頭の隅にあるだけで知らず知らずに対応に変化がでてくる面があるので、必ず強調するようにしています。


§3 巻き込まれへの対処

●本人の気持ちに共感しすぎると、症状に巻き込まれる可能性もあると思われますが、どのへんまで受け止めたらよいのでしょうか。

金生:そこは本当に難しいと思います。とくに親の場合、それまでの親子関係によっても異なります。小さいときに愛着関係が密で(参考:前回コラム§3 )、徐々によい意味で距離を取ってきたときに発症すると、うまく対処できることが多いのですが、逆に、小さいときの愛着関係が密でなかったり、その後の親子関係に偏りがあった場合、強迫症状に巻き込まれやすくなることがあります。その場合、根本的な親子関係を変えるのは難しいですけど、親子それぞれの行動や考え方、環境などで具体的にはどこから変えられそうか、生活の中で話し合い、ケースごとの対処を探していきます。子どもでも不安などの気持ちについて話せるならば不安階層表(*4)を作り、その表を基に話しますし、そのようなものを作らずに、これはできそうか、難しそうかなど具体的な方法を相談していくこともあります。

もう一つは、患者さんと接する時間を調節することです。患者さんと長い時間接していれば、巻き込まれることもあるわけです。接する時間を短くしても、接するときはその子のことを一生懸命考えて対応するようにします。これは、その子の言うとおりにするという意味ではなく、巻き込まれないようにしながら適切に対応するにはどうしたらよいのかを一生懸命考えるということです。でも、これはとても根気のいることなので、その子と接している時間があまりに長いと親のほうが疲弊してしまいます。親は、いつも子どものそばにいなくてはいけないと思いがちですが、子どもと離れてリフレッシュできるときはしたほうがよいと思います。なかなか実行できなくても、そのように意識することも大事だとお話しします。

同時に、親は子どものことを大事に思っているということも、しっかり示すことが必要だと思います。

●お子さんに対しては、どのような説明をされるのですか。

金生:お子さんに対しても疾病教育*5を行います。「お母さんに強迫行為をやってもらっても、苦しみから抜け出せないのよ。それは病気なんです」と説明します。すべてを理解することは難しいかもしれませんが、ちゃんとお話します。お子さんが強迫症状への巻き込みを求めたときも、お母さんは「お母さんが代わりにやってもよくならないって、病院の先生が言っていたでしょ」と対応してもらえますからね。不安でしがみついているから強迫行為を行う部分があるわけです。不安をどう解消してあげるかが大事です。

治療の初期には、「あなたは全然悪くないのよ」とお子さんの人格とOCDという病気とを切り離す外在化*6をしてから、病気の治療が必要なことを説明します。なかには強迫症状がすっかりなくなる子どももいますが、よくなるとしても、一定の症状、困らない程度の症状が残る場合が多いように思います。とくに、発達的にアンバランスなところがある患者さんですと、外在化を完全に進めるのは難しく、「生活していくうえでそれほど困らなくなったから、このあとは上手に付き合っていきましょう」としていかざるを得ない部分もあると思います。

患者さんのちょっとおかしな言動を全部病気だと思い続けていくと、「この病気は治らないじゃないの」と思ってしまうので、患者さんの特性であるとして、病気に関する意識を切り替えていただくようにご家族に伝えています。


§4 トラウマ、いじめ、不登校への対応

●OCDの発症にトラウマ*7)が関係していることはありますか。

金生:私が診てきたケースでは、発達障害がベースにあるOCDの方では、トラウマが大きくかかわることは少ないように思います。むしろ発達のアンバランスがない方に、トラウマとなる出来事があって、そのあと強迫症状が現れたケースはあります。その場合、トラウマとなったことをどう乗り越えていくかサポートしながらお薬による治療をします。実際に改善したケースを私も経験していますが、子どもではトラウマが関係しているのは少数派ではないかと思います。

世間でトラウマという概念が広くとらえられ過ぎているようにも思われ、やみくもになんでも外傷後ストレス障害(PTSD)にするのはよくないのですが、どのような出来事が本人にとって重大なものとして残っているのかについて、もっと丁寧に診ていく必要があると思います。

●発達障害やチックのような癖があると、それを理由にいじめられたりして、そのことが症状に影響することもあるのでしょうか。

金生:確かにいじめられやすい人もいます。状況の察知が苦手なので、いじめとまでは思えないことも、いじめと重く受け止めてしまう部分がありますが、それ以前に、いじめを経験していたら、過敏になるのは当然のことです。いじめととらえるかどうかは、微妙な部分があります。親もそうですし、とくに教師が「それはいじめじゃないのに」などと本人を責めたりすると、それがトラウマになってしまう場合もあるんです。

本人の受け止め方を理解しながら、考え方を切り替えるようにできたらいいのですが、本人のこだわりがあるから、一般的な認知療法*8ほどはうまくいかないのです。そういう場合は、何か楽しいことをやろうとか考えようとか、別の方向に関心を向けて、ネガティブな感覚へエネルギーがいかないようにするとよいのです。要するに、治らない部分が残ってもその比率が下がればよくて、そういう対応が必要なことは結構あります。

●いじめに関連して不登校という問題がありますが、これは学習の遅れや運動機能の発達に影響することもありますか。

金生:それはあると思います。無理やり学校へ行かされるという気持ちを抱かせずに、どうやって状況をカバーしていくかということを考えなくてはいけません。以前に比べて、学校の体制もいろいろと変わってきましたよね。保健室登校というかたちをとったり、学校以外にもさまざまなフリースクールができてきました。高校になると、サポート校とか定時制とか単位制の高校などいくつかのタイプの学校が選べるようになってきました。

そういうものの活用も含めて、本人が自分のやりたいことを見つけて、社会に参加したいと思うように、どうサポートしていくかということを考えます。学校に行けたら行く、でも、学校が嫌だったら外に散歩に行くことから始めるとか、習い事をするとかあります。そこで、同年代の友人が見つからなくても、家にいるのとは違います。前に進みたいという気持ちをどうやって引き出すかということが大事です。

これは不登校一般でいえると思うのですが、学校に行くことよりも、本人が社会に参加して社会の一員として、好きなことをやれるようになることが一番大事です。それを可能にするにはどうしたらいいのかという視点で、いっしょに考えていき、親御さんにも考えてもらうようにします。もちろん学校とか教育相談などを含めた機能もうまく使ってOCDの子どもをどうサポートしていくか工夫していきます。


次回の「子どものOCDとは?」では、OCD治療に関するお話をご紹介します。


*注釈
*1 自閉症スペクトラム障害――自閉症とそれに似た特性をもつアスペルガー障害、特定不能の広汎性発達障害などを含めた発達障害の分類名の一つ。『DSM-5』から診断基準に用いられるようになった。スペクトラムとは、障害・疾患に共通した特性があり、連続性をもつという意味である。どこからが病気なのかという境界は明確にし難いが、何らかの困難が生じていると、特性としてのスペクトラムを超えたスペクトラム障害と考えられる。
*2 特定不能の広汎性発達障害――『DSM-Ⅳ-TR』という診断基準では、自閉症、アスペルガー障害などの広汎性発達障害の特性をもってはいるが、それらの基準を完全には満たさないものを指している。
*3 典型的でもない辺縁の人――例えば、自閉症スペクトラム障害についてみると、その範囲内ではあるが、典型的な自閉症ではない人。コミュニケーションや行動、興味、活動でのこだわり、不得意なもの、ルールや儀式的なパターンへの執着などの特性を、自閉症ほど顕著ではないがもっている。ADHDなどの他の発達障害についても同様である。
*4 不安階層表――抱えもつ不安や強迫行為をしていることを、不安や苦痛の度合いによって階層的な表にまとめたもの。
*5 疾病教育――疾病(病気)の特徴や、症状のしくみ、悪化しないための対処のポイントなどを、専門家が説明して、当事者が理解することによって治療に役立てるもの。
*6 外在化――当事者の心のなかに抱えていた問題・症状を、自分の人格とは切り離して、別のものとして扱うこと。
*7 トラウマ――診断基準では、トラウマとなる出来事には、生死、もしくは重症となるような危機、性暴力などがあり、それを体験もしくは目撃したことなどである。そのような出来事によって、心的な外傷を負うと、それに関する記憶・感覚に襲われたり感覚が麻痺したりなど、出来事を連想させるものを回避するなどの精神症状をもたらす。
*8 認知療法――考え(認知)を、別の立場から考えたり話したりすることで、考え方に幅をもたせたり、変化をもたらす精神療法。