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OCDコラム

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OCDの診断基準が変わった?!

病気の治療をするときには、まず、どのような病気なのかを診断するところから始まります。たとえば、高熱が出てインフルエンザが疑われる場合、インフルエンザウイルスの有無をチェックすれば診断ができます。一方、強迫性障害(OCD)など心の病気の診断は、このように簡単にはいきません。そこで、精神科の医師たちは、患者さんの症状やそのときの気持ちなどを聞きながら、診断していくのです。そのとき、多くの精神科の医師たちが参考としているものに、アメリカ精神医学会によってまとめられた『DSM』という診断基準があります。その『DSM』の内容が2013年5月に改訂されました。このコラムでは、OCDに関連する部分で、どこがどのように変わったかを日本語訳にしてお知らせします。


目次
§1 心の病気の国際的な診断基準
§2 OCDの分類が不安障害とは別に
§3 OCD自体の診断基準に大きな変化はない
§4 溜めこみ障害の診断基準


§1 心の病気の国際的な診断基準

心の病気を診断するときに、医師たちが参考にしている国際的な診断基準に、アメリカ精神医学会がまとめたものと国連の世界保健機構がまとめたものの2つがあります。精神疾患の診断基準とは、疾患を症状によって分類し、医師や研究者などの専門家が診断の信頼性を向上させるための基準としてまとめたものをいいます。

アメリカ精神医学会(APA)作成――『DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)』:精神疾患の診断・統計マニュアル
世界保健機構(WHO)作成――『ICD(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)』:疾病及び関連保健問題の国際統計分類

日本では、どちらの診断基準も用いられていますが、精神科医療の現場では『DSM』が用いられることが多いようです。

最初の『DSM』である『DSM-1』が発行されたのは1952年で、その後改訂が重ねられています。こちらはアメリカ精神医学会が作成していますが、実際に改訂する際は、世界各国から精神疾患のさまざまな分野の専門家が集って協議をしています。それは『DSM』がアメリカ以外の多くの国でも精神疾患の診断基準として用いられているからです。ただし、『DSM』は、あくまでも診断・鑑別のための症状の分類であり、病気の治療法をまとめたものではありません。したがって、『DSM』の改訂によって、直接、治療法が変わることを意味するわけではありません。


§2 OCDの分類が不安障害とは別に

OCDは、これまでは、社交不安障害やパニック障害、心的外傷後ストレス障害などと同じ不安障害というグループに分類されていました。しかし、今回改訂された『DSM-5』からは強迫と関連疾患という分類が新たにつくられ、そちらに属することになりました。OCDの人のなかには不安・恐怖を感じる人もいますが、むしろ、不安や恐怖以外の嫌な感情を抱える人も少なくなく、以前から不安障害のグループでいいのか議論されていました。


『DSM-5』で新たにつくられた強迫と関連疾患のグループには、OCDのほかに次の疾患や症状が含まれています。


これらはOCDの患者さんのうち、ある程度の割合の人が経験しています。ほかにも、強迫観念、強迫行為の診断基準に完全には当てはまらないが、一部が該当する関連疾患として、強迫行為が伴わない考えだけの身体醜形障害、強迫的嫉妬(しっと)心、対人恐怖に関連した醜貌恐怖・自己臭恐怖なども、同じグループに含まれています。


§3 OCD自体の診断基準に大きな変化はない

OCDの診断基準そのものは、言葉のうえでの細かい変更はありますが、全体的には大きな変化はありません。主な部分を翻訳して紹介します。


[A]かつ[B]で、しかもこれらの考え、行動の原因が薬物によるものではなく、ほかの心身の疾患でも説明できない場合、OCDと診断されます。

ほかに、摂食障害での食事の儀式や自閉症スペクトラム障害(注*)での繰り返しの行動パターンなどが、OCDと似ているものの、別の疾患として区別される症状の例として新たに加わりました。

また、「わかっているけれど止められない」と多くの患者さんが自らの症状を語るように、OCDの患者さんは自分の内面を洞察できて、その考えや行動に違和感や不合理感を抱いているところに特性があります。しかし、この自己洞察については個人差も大きいようで、『DSM-5』では、自己洞察を、「良好・まあまあ」「少ない」「洞察なし・妄想的信念」の3段階に分けて、特定するようになっています。このうち、妄想的信念とは、一般的な強迫観念以上に考えていることと現実とのギャップが甚だしいにもかかわらず、その人がそれを確信している度合いが強いものをいいます。

また、OCDの症状は、患者さんによってさまざまに異なり、今回の改訂ではそのような違いや、よく似た別の精神疾患との区別に対応しやすいようになりました。しかし、OCDという病気そのものに関する診断基準に大きな変化はありません。そして、病気の最終的な診断は、医師が患者さんの心身を総合的に診ることによって判断されるものなのです。


§4 溜めこみ障害の診断基準

今回の改訂では、精神疾患としての溜めこみ障害(ホーディング)の診断基準が初めて掲載されましたので、その一部を紹介します。


溜めこみ障害は、OCDの強迫観念によるものは含みません。OCDとは同じグループに分類されていますが、別の疾患という位置づけになります。また、ほかの精神疾患によるもの(例:大うつ病によるエネルギーの減退、統合失調症の妄想、自閉症スペクトラム障害での興味の限定など)も含まないとされています。

日本でもときどき報道されますが、自宅をゴミ屋敷にしている人のなかには溜めこみ障害に限らず何らかの精神疾患を抱えていると診断される人がいます。ただし、その後の治療や支援の方法がまだ日本では確立してはいません。

この診断基準では、「物を捨てることの難しさに、必要ではなかったり置く場所がないのに物を過剰に収集する行為を伴っているか」は考慮すべき事項とされています。しかし、買い物依存のように単に買い物や収集行為が過剰であるだけでは該当しません。現状では溜めこんだ物を取捨選択できずに、捨てられないことで日常生活に支障をきたしているかが、診断のポイントとなります。

これを機に、今後、溜めこみ障害への研究が進み、改善法が普及してほしいと思います。


注釈:
*自閉症スペクトラム障害――従来の広汎性発達障害のうち、レット障害を除いた自閉性障害、アスペルガー障害などを一つのグループにまとめたもの。神経発達障害という大きなカテゴリーに分類され、このカテゴリーには自閉症スペクトラム障害のほかに、注意欠陥/多動性障害、学習障害、運動性障害(チックなど)が含まれる。

参考文献:
[1] American Psychiatric Association[著]「Desk Reference to the Diagnostic Criteria from DSM-5」American Psychiatric Publishing (2013年)

本文の記事は、英語版の原文を元にしていますが、一般の人向けに、なるべくわかりやすい日本語に訳しましたので、いずれ発行される『DSM-5』日本語版の邦訳と異なる言葉遣いがあり得ることをご了承ください。