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妊娠、出産、育児とOCD~お母さんも大変

乳幼児を子育て中のお母さんの日常では、予想外のことがしばしば起こります。お子さんの夜泣きがおさまらないとか急な発熱など緊急の対応に追われることもたびたび。そのような毎日はOCDを抱えているお母さんにとって、時間的にも精神的にも非常に負担がかかります。また、OCDを抱えている人は、自分の病気を話したところで周囲の理解を得ることは難しいと考えがちで、育児の悩みや病気の苦労を、誰にも話さずに、一人で奮闘している傾向があります。そこで、今回は、小さなお子さんを抱えるOCDのお母さんに協力していただき、その方の体験を中心に、育児とOCDにまつわる悩みについてまとめてみました。


目次
§1 まんぼうさんの体験① 症状の変化
§2 まんぼうさんの体験② 子育てと生活の大変さ
§3 妊娠・出産と女性のOCDの研究
§4 さまざまな問題~治療、理解、時間
§5 まんぼうさんからのメッセージ


§1 まんぼうさんの体験① 症状の変化

3歳の男児と1歳の女児のお母さんであるまんぼうさん(41歳)は、OCD症状を抱えながら子育てに取り組んでいます。ただでさえ、神経も体力も時間も必要とする子育てですが、そのような状況にOCDという病気はどのようにかかわってくるのでしょうか。そこで、まんぼうさんに子育ての様子をお聞きしました。

◆まんぼうさんの話:発症から受診まで

思い返すと子どものころからOCDっぽい症状はありましたが、それは一過性のものでした。32歳のとき、職場で戸締りを忘れ、上司にひどく叱られてしまったことがきっかけで、戸締りが気になるようになり何度も何度も確かめるようになってしまいました。確かめても、確かめても、「できた」という実感がもてず、症状がひどくなっていきました。

その上司がものすごく怖い人で、気分によって当たり散らすので、周りの方々に申し訳ないという気持ちから、「次は絶対に失敗してはいけない」と思い込むようになり、精神的に追いつめられていきました。その後、心療内科に行きましたが、薬をもらうだけで効果はありませんでした。また、戸締りの確認だけでなく、仕事で個人情報を扱っていたため、その処理が気になって、物が捨てられなくなるなど、強迫の症状が増えていきました。


まんぼうさんの強迫症状は、初めは戸締りの確認や職場での個人情報の取扱いに現れていたのですが、出産後は症状の現れ方に変化がありました。

◆まんぼうさんの話:妊娠から出産のころ
一人目を妊娠しているときは仕事を続けていて、強迫の症状はあるものの、なんとか大丈夫でした。出産後、子どもが6ヶ月くらいの、何でも口に入れてしまう頃から、何か変なものを飲んでしまったのではないかという誤飲恐怖が始まりました。それから少し後に、不潔恐怖も始まりました。おむつを交換するときに、子どもの排泄物が私の服や手について、それを子どもが口にしておなかを壊すとか、それがおもちゃについてしまい不潔になるのではと思うようになっていきました。

二人目を妊娠中、つわりがひどく、いつも通りの
確認作業が思うようにできなくなり、気持ちが不安定になりました。そのころから、お皿やお鍋に変な物が入っていないか確認する症状が出てきました。


§2 まんぼうさんの体験② 子育てと生活の大変さ

まんぼうさんに、OCDを抱えながらの子育てで、「困った」「大変だ」と感じていることを聞いてみました。

◆まんぼうさんの話:子育て中の悩みごと
とにかく家事に時間がかかる。強迫観念に襲われて確認をしながら家事をするので、とても時間がかかるし疲れます。家事も最低限のことしかできなくて、もっとこうしたい、これもしたいと思うけれど、エネルギーが残っていないし、また強迫に襲われるのではと、二の足を踏んでしまうのです。それがまたストレスとなります。

私一人で子どもを初めての場所に連れて行くのが不安で苦手。自分も知らない場所なので、どこに何があるかわからないから不安で、子どもから目を離すのがものすごく怖くて、ちょっと出かけるだけでものすごく疲れます。

確認作業に時間を取られてしまい、子どもが泣いていてもすぐにそばに行けないときがあります。自己嫌悪。気が休まる時間がない。子どもが寝ているときに、決まって強迫観念が襲ってきて確認作業をしてしまう。やらなくてはいけない家事作業が進まなくて、できない自分にイライラする。できないことは夫に頼んでしてもらうときもありますが、それがまた自己嫌悪となります。堂々巡りの毎日でストレスがたまります。

自分の思うように動けない、できないというのがストレスです。それによって家族に迷惑がかかっていると思うと本当に情けなくなります。


お子さんがいて、とくにまんぼうさんのようにまだ小さいお子さんをもつお母さんは、家事量も多く、とても大変なようです。次に、夫やほかの家族の病気への理解度と協力について聞きました。

◆まんぼうさんの話:周囲の理解と支援
夫には病気についてもちゃんと話していて、家事などもとても協力的です。実姉にも1度強迫性障害のことを打ち明けましたが、その後は一言も強迫性障害については話していないし、カウンセリングを受けていることも知らせていません。心配をかけたくないというのと、知られたくないという自分の気持ちもあります。

まんぼうさんは、OCDという病気に対して、どうしたらよいのか困り果てていたときに、インターネットで認知行動療法のカウンセリングを見つけ、受けてみることになったそうです。OCDという病気を抱えながら子育てをしていて、どのような支援やサービスがあるといいのかを聞いてみました。

家の近くに強迫性障害に詳しい専門家の先生がいて気軽に相談できる場があったらいいなと思います。同じ強迫性障害の方々との交流会にも参加してみたいですが、私はまだ、ほかの方の話を落ち着いて聞ける状態ではなく、ほかの方の強迫症状に影響を受けてしまいそうなので、交流会などへの参加はまだ怖いです。


§3 妊娠・出産と女性のOCDの研究

一般に、妊娠・出産を機に、OCDを発症もしくは悪化してしまう女性は少なくありません。海外では、出産を経験したOCDの患者さんでは、それらを機に発症・悪化した人は20~40%の割合でみられ、OCDに影響を与えた人生の出来事として、「妊娠・出産」と回答とした人が最も多かった(39%)という研究報告がありました。[1,2]

産後のOCDでは、危害や加害に関する強迫観念が最も多いと海外の文献で報告されています。日本で同じような調査があるかはわかりませんが、このような時期に、不潔・感染への強迫観念を抱く人もよく目にします。乳児は、実際にデリケートな対応が必要ですから、親としては心配が尽きません。このような乳児への危害に関する強迫観念は、母親だけにみられるのではなくOCDを抱えた父親でも経験する人がいます。

また、日本でも、乳幼児への虐待のニュースに対し、「他人事とは思えない」と回答するお母さんが、ある程度の割合でいるようです。このように、赤ちゃんの誕生がおめでたいばかりではなく、世間で抱く幸福とは逆の考えに悩まされる人もいます。しかし、そのような考えに悩まされる人のすべてがOCDというわけではなく、むしろ、OCDの場合、強い不安や恐怖を伴うことと、実際には虐待などするはずもない人が、想像しては悩み、強迫観念を抱くことが特徴となります。

マタニティ・ブルーや産後うつという言葉が知られているように、妊娠、出産の前後には、OCDに限らず精神的に不調をきたす人が少なからずいます。

一方、過去の出来事に対する後悔としては、進学や就職がうまく行かなかったことからOCDを発症したと考えては悔やみ、延々と後悔の念にとらわれる人もいます。

それらの不調に関係するものとして考えられているのは、女性ホルモンの一種であるエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)です。この2つのホルモンが、妊娠によって変化することで精神症状に影響を与えているのではないかという仮説が報告されています。また、脳の視床下部でつくられるオキシトシンという物質は、体内でホルモンとしても神経伝達物質としても作用し、その脳脊髄液でのレベルが、OCDの重症度に関連しているという報告があります。オキシトシンは、子宮の収縮や母乳の分泌にも関わる物質なので、産後のOCDと関係があるのではと考えられています。しかし、OCDそのものの発症原因はいまだ明らかではなく、いずれも仮説の段階です。[1,2]


§4 さまざまな問題~治療、理解、時間

■治療
OCDの治療としては、薬物療法が治療の中心になりますが、妊娠中、もしくはその可能性のある人が、服薬する際には、必ず主治医に相談してください。授乳中の人についても同様で、主治医に授乳中であることを伝え、治療法を選択してもらいましょう。薬物療法以外の治療法として認知行動療法などの精神療法を望まれる方もいらっしゃいますが、精神療法を行っている機関は限られ、患者さん・家族にとって探すことが難しいという問題があります。

■理解と巻き込み
OCDという病気に対して、社会の理解が低いことも、患者さんの病状や環境に大きな影響を及ぼします。まず、出産・育児の際に発症、悪化した患者さんに対しては、夫が病気への理解をもち、家事や育児に協力することは、とても重要なことです。しかし、育児や家事を夫が代わりにやっているうちに、強迫症状によって困っている部分まで手助けしてしまうと、強迫行為へ巻き込まれることになります。そのあたりの区別が、OCDの対応で難しいところです。できればOCDにくわしい専門家とともに、家族も正しい知識を学習できるといいのですが、それが難しい場合、当サイトの心理教育のページやコラムを参考にしてください。

また、夫以外に、実家の両親や兄弟姉妹の支援を受けたほうがいい場合もあります。ただし、その場合も、強迫症状への理解が得られているとよいでしょう。不潔強迫で、帰宅した家族に、必ず手洗いや着替えをするように求めていた人が、孫の顔を見に訪ねてくる実家の親にまで、同じように求めてよいのか、悩んだという声はよく耳にします。しかし、親たちにまで、それらを強要し、受け入れさせることは、強迫行為への巻き込みとなってしまい、かえって強迫症状を強めてしまいます。また、ほかの心身の病気と同様にOCDの人は、世間一般の価値観に照らし合わせた母親や嫁の役割をこなすことが困難な点があり、そこは致し方ない部分です。だからこそ周囲の人の病気への理解が大切になります。

■時間と状況の変化
赤ちゃんは日々成長していきますし、育児休暇を利用している人は、休暇期間に限りもあるため、OCDに多くの時間を取られていると、時間が足りないという感じが強くするでしょう。子どもの成長は喜ばしいものですが、子どもが自由に動ける範囲が広がるにつれて、汚いものを勝手に触らないか、危険な行為をしないかなど、母親の強迫観念を刺激する新たな悩みも出てきます。子どもが保育園に入ったら、保育園の行事やママ友との付き合いをしなくてはいけませんが、強迫症状が邪魔して、スムーズにできないと悩んでしまう人もいます。

このように忙しい生活になりがちな育児中のOCDの患者さんを、どのように適切な治療へと結びつけ、治療に取り組む時間を確保するのかということは大切な問題であり、今後サポート体制を整えていかなくてはいけない部分となります。


§5 まんぼうさんからのメッセージ

子どものために家族のために自分が強くならなきゃって、がんばってるつもりなんだけど、日々生活するのに精一杯でなかなか治療に取り組めなくて落ち込んで。でも落ち込んでいる時間もなくて……。なんていう毎日を私は過ごしています。同じような気持ちの方、いらっしゃいますか? 強迫に負けないように本当に少しずつでも前に進めるように一緒にがんばらせてください。希望をもって一緒にがんばっていけたらいいなと思います。

誰にも相談できずに一人で苦しんでいる方は本当に苦しいと思います。想像するだけで涙が出ます。どこか相談できるところに一刻も早く巡り合えて、少しでも心の苦しみが減ったらいいなと思います。


まんぼうさん、取材に協力していただきありがとうございました。「小さなことが気になるあなたへ」では、OCDを抱えつつ、子育てに取り組む人たちを応援しています。今後も、このような方々の声を取り上げられればと思っていますので、ご意見・メッセージをお寄せください。


*参考文献
[1]
Jonathan S. Abramowitz, Stefanie A. Schwartz,Katherine M. Moore, Kristi R. Luenzmann, Obsessive-compulsive symptoms in pregnancy and the puerperium:A review of the literature, Anxiety Disorders 17 (2003) p461–478
[2]
Aridana Forray, Mariel Focseneanu,Brian Pittman, Christpher J.McDougle, C.Neill Epperson, Onset and Exacerbation of Obsessive-Compulsive Disorder in Pregnancy and the Postpartum Period, Focus on Women’s Mental Health, J Clin Psychiatry.71:8,August 2010,p1061-1068