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OCDコラム

OCDコラム

これって強迫性障害? それとも、きれい好き?
③不潔・汚染

汚染/洗浄は、強迫性障害(OCD)の代表的な症状の現れ方です。きれい好きや潔癖症といわれている人とOCDとでは、どこが違うのでしょうか。汚染/洗浄タイプのOCDの人たちは、どのような問題で悩み、どのような気持ちでいるのでしょうか。そこを探りながら、そのような症状を引き起こす病気のしくみと治療法について解説します。


目次
§1 きれい好き・潔癖症とOCDの違い
§2 汚染強迫の人のつらい事情
§3 OCDでの汚染と洗浄のしくみ
§4 治療~悪循環から抜け出すには


§1 きれい好き・潔癖症とOCDの違い

常に部屋の掃除や整理が行き届いているきれい好きや几帳面、潔癖といわれるタイプの人がいます。国語辞典[1]によると、几帳面とは物事を細かいところまできちんと行うことをいい、また、潔癖は不潔や不正を極度に嫌う性質と書かれています。掃除や洗浄に対して、自分がきれいな状態が好きだから率先して丁寧に行っているというのであれば、それはその人の性格といえます。では、そのような性格の人とOCDで掃除や洗浄の強迫行為をしている人とでは、どこが違うのか考えてみましょう。

OCDにおいて、汚れや汚染が気になる不潔恐怖といわれる症状は、比較的多くみられるタイプです。きれい好き・潔癖症の人は、視力や嗅覚など五感の範囲できれいかどうかを判断しますが、OCDの不潔恐怖の人では、肉眼では見えなくても、頭のなかで想像した汚れまで気になります。肉眼では見えないほどの汚れの粒が、次第に増えていき、汚染の範囲を広げて、何か非常に悪いことをもたらすのではないかと危機感を抱きます。

さて、汚染の強迫観念をもたらす対象ですが、これは人によってさまざまです。以下に主な例を紹介します。

汚いと感じるものの対象は、物ばかりではなく人になる場合もあります。ある特定の人が目に見えない汚れをもたらすと考えてしまう(強迫観念)のです。実際にその人が不潔かどうかは関係なく、患者さんの頭のなかで強迫の対象となってしまうのです。対象者の印象や病気への偏見が反映している場合もあります。

汚染強迫の対象には、すぐに被害や発症に結びつかなくても、徐々に進行・浸食して、やがて重大な危機をもたらすと考えさせるものがなりやすいようです。ここから病気恐怖の強迫観念へと結びつくこともあります。

病気を移されるのが心配で血液などを過剰に警戒し、赤茶色い小さな点を見ただけで血液かと思い避けてしまうことがあります。また、虫歯や歯槽膿漏(しそうのうろう)が原因で歯がぼろぼろになってしまうのではないかと不安になり、歯磨きに時間をかけることもあります。

このように汚染/洗浄タイプのOCDでは、ただ汚いというだけではなく不安や恐怖といった嫌な感情が伴います。だからこそ、汚れたと思うところがわずかであっても、何としてでも取り除きたいという衝動に駆られてしまうのです。

誰にとっても汚れは嫌なものですが、通常は汚れに対して不安や恐怖までは感じません。潔癖症の人は、部屋がちらかっていると落ち着かなくて掃除をしたくなるかもしれませんが、そこに不安や恐怖はありません。少し度を越したきれい好きであっても、日常生活にそれほど支障をきたさないようでしたら、OCDとは考えにくいです。


§2 汚染強迫の人のつらい事情

汚染強迫の人は次のようなことに悩まされています。


1.洗浄行為を終えるタイミングや程度がわからない
いくら洗っても汚れが残っているように感じてしまい、どこで終えたらよいのか、タイミングがわからないことがあります。そのため、何回洗ったら終わりにしようと回数を決めることがあり、そこから数にこだわるタイプのOCDになる人もいます。

石けんやシャンプーも泡立ちが悪いと洗った気がしないため、大量に使ってしまう人がいます。また、石けんやシャンプーを洗い流すときには、石けんや汚れが少しでもが残っているのではという強迫観念がもたらされ、ここでも過剰になる人がいます。

皮膚には皮脂があるので洗った後も肌が多少つるつるしたり、洗髪後にシャンプーの香りが残ったりするのは当たり前のことなのですが、それが気になって、長い時間かけて徹底的に洗い流します。洗浄強迫の人のなかには、このように適度という範囲がわからなくなり、石けんやお湯を大量に使ってしまうことがあります。

強迫行為のために洗浄が過剰になってしまう人からすれば、入浴は過酷なものでありリラックスするどころではありません。OCDになると温泉で疲れを癒すなんて想像もつかないことになってしまうのです。

2.不潔強迫でも部屋がきれいとは限らない
掃除や洗浄の場面で行われる強迫行為には、1回の行為にひどく時間がかかるタイプと短時間の行為を頻繁に行うタイプとがあります。いずれのタイプでも、トータルに考えれば、とてもひどい疲れをもたらします

強迫症状がひどくなるにつれて、時間とエネルギーが奪われるため、それ以外のことをする余裕が失われます。そのため、不潔恐怖のタイプであっても、症状で気になる場所以外を掃除している余裕がなくなり、かえって散らかって不衛生な状態になることもあります。ここもきれい好きや潔癖症といった性格とは違う点です。

3.OCDによる掃除や洗浄はコントロールが難しい
強迫症状にとらわれると、掃除や入浴にかける時間やそれらの方法を自分でコントロールすることが難しくなります。たとえば、急用ができたから掃除を中断するということができません。そのため、どんなに時間がなく、疲れていて、睡眠時間が減ってしまっても強迫行為としての掃除を続けてしまうのです。同様に手洗いが過剰であかぎれなどができても洗わずにはいられなくなります。


§3 OCDでの汚染と洗浄のしくみ

目に見えないほどの微細な汚れや汚染物質が気になりだすと、自分自身や他の人がそれらの汚れを媒介しているのではないかと考えてしまうことがあります。汚れに触れた手を洗わないでほかの物に触れば、そこにも汚れが移ったという疑いが頭のなかに広がります。このように、目に見えない汚染が広がることで、さらに自分を脅かすと考えてしまうのです。このような考え方は、不潔強迫の人の特徴です。

そして、不潔強迫の人は汚れた場所と汚れていない場所とを区別します。汚れた場所に触れた手で、きれいな場所を触ったら、そこは汚れた場所になってしまい、さらなる危機を招くので、何としてでも防がなくてはなりません。そのため、汚れた場所に触れたものを、汚れていない場所に持ち込む前には、洗浄という強迫行為が必要になると考えるようになっているのです。

たとえば、外は汚れた場所だが、自宅はきれいな場所だと考えている場合、帰宅するとすぐに着替えて入浴をします。そのような儀式をしないと部屋に入ることができないのです。さらに、家族を強迫行為に巻き込んでいる人は、同じ儀式を強いるようになります。


§4 治療~悪循環から抜け出すには

OCDの治療として効果が認められているものに薬物療法認知行動療法があります(⇒OCDの治療法)。OCDは、強迫観念に従って強迫行為をしてしまうことで、さらに強迫観念を強めてしまうのですが、この悪循環に陥るとどんどん悪化していきます。したがって、いずれの治療法でもこの悪循環を解消することが治療目的になります。

不潔強迫に対する認知行動療法も基本は、強迫行為とは逆のことをしてもらいます。[2]
つまり、「強迫観念をもたらすものを避ける」「嫌な感情を打ち消すために強迫行為をする」などとは逆のこととして、自分から嫌なものを受け入れる体験をしていきます。これが認知行動療法の曝露反応妨害という技法です。ただし、ほかの人が無理やり嫌なものに触れさせようとすると、患者さんは外から攻撃されると感じ警戒してしまうため、曝露反応妨害にはなりません。患者さんの意思で臨んで行わなくてはなりません。

実際の曝露反応妨害は、治療者や患者さんの状況によってさまざまです。一般的な方法では、強迫症状の全体を調べ、段階的に行います。その場合、患者さんにとって難易度の低い課題からチャレンジして、強迫行為をしなくても、徐々に不快感が減ってくることを体験していきます。それによって、いくらかでも生活がしやすくなった、強迫行為を減らすことができたという事実が自信につながり、難易度の高いものへも挑戦しやすくなります。

曝露反応妨害では、強迫観念と強迫行為の悪循環に焦点をあてますが、強迫観念を直接なくそうというアプローチではなく強迫行為を変えていくのですが、その際にはどのような強迫観念があるかを踏まえて行います。

たとえば、入浴に2時間もかかる人に、「1時間にしましょう」と単に入浴時間の設定をするだけでは根本的な症状の改善には結びつきにくいのです。このような場合、入浴時間が長いのは、外から目に見えない汚れを自宅に持ち込むことに耐えられないという強迫観念によって引き起こされていることを理解したうえで、曝露反応妨害法を行います。

汚れを持ち込んだまま室内で過ごしたらどうなるかを実際に体験してもらうのです。ただ、そのときに室内に持ち込む汚れは、患者さんが汚れていると思える程度で十分です。そのような体験を何度か十分な時間をかけて行っていくうちに、汚れた場所と汚れていない場所との境界線が崩れ、徐々に長く洗わなくてはいけないという強迫観念が薄らいでいく感じが得られます。

薬物療法でも効果が現れると、強迫行為をしたいという衝動が和らいでいきます。そのため、認知行動療法をする場合でも薬物療法を併用することが多いのです。

汚染/洗浄はOCDの代表的な症状で多くの国でみられます。上下水道が整備されていない国では、十分に洗浄行為をすることができない場合もあるでしょう。また、感染症などの危険が高い地域もあるでしょう。OCDの患者さんを取り巻く環境は国によって異なるため、汚染/洗浄の症状の現れ方は、人や地域によって傾向が異なります。

しかし、海外では1970年代以降、約40年の治療実績があるOCDへの認知行動療法によって症状が改善した人が多くの国でいることも事実です。また、OCDの治療薬としてSSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)のフルボキサミンは、1994年以降、多くの国で承認されています。このように強迫症状の現れ方はさまざまであっても、治療のアプローチは、強迫観念と強迫行為の悪循環を断ち切ることが基本で、そこが重要なのだということがわかります。



*参考文献
[1]
金田一京助、山田忠雄、柴田武、酒井憲二、倉持保男、山田明雄[編]「新明解国語辞典第5版」三省堂(1997年)
[2]
Paul R., Ph.D. Munford [著] Overcoming Compulsive Washing, New Harbinger Pubns Inc (2005年)