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【私のOCD体験記】第12回 藤宮えみさん(仮名)
OCDであったことを笑い飛ばせる日を夢見て

仕事を辞め、主婦業に専念した頃から、「主婦の仕事は完璧にしなくっちゃ」と思い込み、特に掃除に関しては、過剰なまでに行ってしまったという藤宮えみさん。その後、ものの位置や順序、数字へのこだわり、確認、加害とさまざまな強迫性障害の症状に悩まされました。それでも「私の性格がおかしいのだ」と自分を責め続け、病院へ行くことはありませんでした。そんな苦しい日々を送っているうちに、「強迫性障害(OCD)」という病気をインターネットで知り、自分を苦しめているものは、病気だったのかもしれないと気づいた藤宮さんは、ようやく病院へゆきました。病院で薬物治療を中心に行った結果、症状が徐々に改善されていきました。そんな悩み深い日々から心が軽くなってくるまでを体験記にまとめてくれました。


藤宮えみさん(仮名)、女性、28歳


目次
§1 もともと生真面目な性格
§2 家事を完璧にという思いが高じて
§3 受診を決意させた家族の思い
§4 完璧じゃなくていいんだ


§1 もともと生真面目な性格

私は、三年半程前に強迫性障害と診断されました。ただその段階に行き着くまでには長い期間を要したのでそこから書いていこうと思います。

きっかけは金融関係の仕事に就き、仕事のなかで確認を過度に行うところからだったと思います。元々生真面目な性格で、一線からあまりそれることができない、決まっていることは絶対に守るというタイプでした。

それゆえ、仕事ではより一層そんな生真面目さが強く出てしまいました。「ミスは絶対にダメ!」と過度な確認をしつつも、仕事は人より遅れることなく、一定の効率を維持しようと努力するため、そのしわ寄せが徐々に影響を及ぼしたのかなと思います。

そのうち、知らず知らずのうちに体調が悪化して、ストレスから「逆流性食道炎」(*1)になり、毎日食事をしてもほとんど吐いてしまうようになりました。しかし、当時の自分は「ストレスを感じて身体を壊す弱い自分が悪い」と真剣に思い込んでいました。その後、休みの日も一日中起き上がれず、外出もしたくなくなり、ただ一日ぼーっとしたり、急に泣いたりと情緒不安定になり、たまの休日にも全くリフレッシュをすることができなくなりました。

そして、自分でもやっと「これはちょっと……自分はおかしいのかな?」と気付き始め、人生で初めて心療内科を受診しました。そこではOCDではなく「うつ病」と診断されました。しかし、当時の自分は勝手な偏見で病を受け入れることができませんでした。「私は心の病気なんかじやない」と否定し続け、まだ症状は続いていたのにも関わらず、「もう大丈夫です」と医者に断り、一ヵ月程ですぐに治療を放棄してしまいました。


§2 家事を完璧にという思いが高じて


その後、結婚を機に仕事を辞めて主婦業に専念することになりました。結婚後、特に強く思ったのが「自分は外で仕事をしていないのだから、主婦の仕事は完璧にしなければならない」という考えでした。その気持ちは日に日に過剰な強迫観念となり、常に小さなことが気になり、それは家事のなかでも、特に掃除に現れました。

床の小さな傷、壁の少しの汚れ、小さなほこり、髪の毛一本なども許せなくなり、四六時中家の掃除をするようになりました。

また、物の位置が異常に気になるようになり、部屋中のいろんなものを頻繁に動かすようになりました。たとえば、CDや本はアルファベット順や作者順に並べないと気持ち悪いなど、物の分類までもが気になり、思ったような位置、分類ができないとヒステリックになることもありました。

そもそも完璧な状態なんてものはないのに、常に完璧であろうという考えが頭にあり、夜中だろうが部屋をひとつずつ見回り確認して、どこが不完全なのか粗探しをしていました。気になれば、もちろん夜中でも掃除をしていました。それらの行為は自分を追い詰めることになり、行動が遅くなり、効率的に物事を進められないために毎日時間に追われてしまい、いつも心身ともにへとへとでした。

ほかにもいくつか症状がありました。まず、物がなかなか捨てられないという症状です。私の場合は買物のレシートを一枚残らず取っておき、月・日付順に分類して保管していないと不安でした。「もしも、後で何かあった場合に大変なことになるのでは」という気持ちがあったからです。

次に数字への強いこだわりがあって、一円単位で毎日財布の中身を確認して計算しないと気が済みませんでした。そのうち、電気やガス、水道のメーターが一日どれくらい動くのか毎日何回もチェックして記録しないと気が済まなくもなりました。

ほかには「加害不安」などもあり、もともと私が住む前からあったであろう些細な傷や汚れでも自分が不注意で傷を付けてしまったのではないかと過度に心配したりしました。頭の中で繰り返し、繰り返し、自分が自分を責め続けるのです。

また「自分に対する危害への不安」も常にありました。外に出かけていても、ビルの工事現場で鉄骨を見ただけで、強い警戒心が生まれて、「もしも自分の上に鉄骨が落ちてきたら」と本気で心配して走って通り過ぎないと気が済まないということも度々ありました。

これら全ての行為について自分自身のなかで、おかしいことをやっているという自覚は十分にありました。けれども一度強迫観念、悪いイメージが頭に浮かぶと、長い間それが離れず、まるで何かに追われているような気分で緊張感が延々と続き、それがとても苦しかったです。

そこまで進行していたのに、当時の自分はOCDという病気があることすら全く知らなかったため、「神経質過ぎる自分の頭がおかしいのだ」と思っていました。気分転換に外に出ようとしても、鍵が、ガスが、電気が…と気になることが多すぎて、「確認、確認」と確認ばかりしていて、やっとエントランスまで出たのに、それでも気になって戻らざるをえず、せっかく出かける準備をしたのに、結局家にこもって部屋でひとり泣いたこともあります。


§3 受診を決意させた家族の思い

そんなとき、インターネットに「小さなことが気になる」と素直な今の気持ちを打ちこんでみたところ、こちらのOCDサイトが一番に出てきました。見てみると、自分と似たような症状がたくさん書かれていたので本当に驚きました。

そこで初めて自分はOCDという病気なのかもしれないと気付きました。それでも、「こんなことで病院に…」という恥ずかしい気持ちがあり、なかなか病院へ行くことはできませんでした。しかし、その間にもどんどん症状はひどくなっていき、ついに受診する決意をしたのですが、その大きなきっかけは「家族への巻き込み」でした。

主人が帰宅して机の上に物を置くと、それが雑然と置かれていることに腹を立ててイライラをぶつけてしまったり、分類をすること、常にキレイにすることを押し付けていました。また、床の傷や壁の汚れも感覚を共有しようと、「ほら汚れているでしょ?」と何度も何度も同じことを聞いて、主人に「大丈夫だよ」と言わせていました。主人の気持ちにも限界があるので、そのことで喧嘩をすることも度々ありました。自分が気になることを人に強制的に押し付けるのはおかしいという自覚はあったので気持ちが落ち着くと大変申し訳ない気持ちになり、自己嫌悪に陥りました。迷惑をかけているのにも関わらず心配してくれる家族を見て、「このままではいけない、特に私と一緒にいて見守ってくれる家族の為に」という気持ちで勇気を出して病院に行きました。


§4 完璧じゃなくていいんだ


治療を続け(主に薬物治療)、まだ月に一度通院中ではありますが、前述したような行為はこの三年半で時間はかかりましたが、だいぶ緩和されました。強迫行為への欲求が起こっても、今は自分である程度抑制もできるようになっています。

何より今までできなかった読書など、自分の自由な時間をもてるようになったことがとても嬉しいです。OCDの治療は少しずつ自分のきつく締めすぎたねじを緩めていくようなそんな感じがします

「そんなに完璧じゃなくていいよ。いつもそんなに緊張しなくてもいいよ。失敗してもいいんだよ。汚くたっていいじゃない」。自分を甘やかすことは、一般的に悪だと思われがちですが、OCDによる完璧さや緊張については甘やかすくらいでちょうどいいと思います。あと気持ちを前向きに。OCDを抱えているとすごく難しいことですが、これは本当に大事だと思います。

急には無理でも、体調が少しでもよくなったときを見計らって、小さな新しいことを始めてみたり、「今日はこれができた! 今日はこれが気にならなかった!」「自分はよくなっている!」と前向きに思い込むことが大事だと思いました。根拠のない自信でもよいと思います。

そして、OCDであったこと、OCDであることも含めて「これが自分の抱えているものなんだ。自分の一部なんだ」と笑い飛ばせるようになって初めて、私はこの病気から解放されるのだと思っています。今は少しでも前向きにそう思うようにして、より良い方向に自分をもっていけるようにと毎日を過ごしています。

OCDは人になかなか理解してもらえない病気ですが、自分でもおかしいという自覚があるゆえに当人は本当に苦しんでいます。長い治療期間を要する場合も少なくない病気だとは思いますが、どんなに暗く長い道のりでも光は必ず見えてくると思ってください。同じ症状で悩んでいる方に心からエールを送りたいと思います。

(終わり)

「小さなことが気になるあなたへ」編集スタッフより

小さなことが気になることは、悪いことでしょうか。製品のわずかな欠陥も見逃さぬようチェックしたり、お客様に細やかな気配りが求められる仕事では、小さなことに気がつくということが評価されます。仕事でも家事でも同様で、小さなことに気がつくという性格がむしろいい結果をもたらすこともたくさんあるのです。

ただし、問題なのは、強迫症状として、小さなことに過剰にとらわれて生活に支障をきたしてしまうような場合です。本人が強迫症状をつらいと感じ止めたいと思っているにもかかわらず、止めることができない場合です。

症状と性格とは区別されます。藤宮さんの体験は、症状が改善していくなかで、そのような自分自身を肯定して受け入れられるようになってきたのだなと思います。


*注釈
(*1)逆流性食道炎――
胃酸を含んだ胃液が、胃から食道へ逆流することにより、食道と胃の境目に近い食道粘膜に炎症が生じるものをいいます。