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OCDコラム

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不安障害に対する認知行動療法 保険適用化への動き

2010年に、日本でも認知療法・認知行動療法が、うつ病治療の一つとして健康保険の適用となりました。しかし、強迫性障害(OCD)をはじめとする不安障害における認知行動療法は、保険診療としては認められていません。そのため、日本不安障害学会では、不安障害の患者さんにも認知行動療法を、健康保険の範囲内の治療として受けられるように働きかけています。2013年2月2日、3日に札幌で開催された同学会の第5回学術大会を取材し、OCDの患者さんに対する認知行動療法の現状と、保険適用になった場合、OCDの当事者にはどのようなメリットがあるのかをご報告します。


目次
§1 不安障害への認知行動療法の専門家はなぜ少ない?
§2 認知行動療法が保険診療されるには
§3 不安障害における認知行動療法の有効性
§4 日本の患者さんの困っている状況
§5 イギリスとの比較と社会への期待


§1 不安障害への認知行動療法の専門家はなぜ少ない?

OCDの治療法として効果が確認されているものは、薬物療法(SSRIなど)と認知行動療法です。しかし、OCDに対する認知行動療法は、それを行う専門家がいまだ少ないのが実情です。そのため、治療を受けたくてもどこに行ったらよいのかわからず困っている患者さんが多くいます。

うつ病に対する認知行動療法は、2010年から保険診療が認められるようになりましたが、OCDをはじめとする不安障害*1)ではまだ認められていません。OCDに対して治療効果が確認されている治療法が、なぜ広まっていかないのでしょうか。

健康保険では、医療行為ごとに診療報酬点数というものが決まっています。たとえば、医師が診察したり、注射をしたりする技術料や薬剤師の調剤技術料や薬の費用などがそれぞれ点数化されているのです。中央社会保険医療協議会というところが、健康保険制度や診療報酬の改定などについて審議して、それに基づき厚生労働省が診療報酬点数を定めています。したがって、日本全国どこの医療機関でも、同じ診療・医療技術に対しては、同じ金額で医療を受けることができるのです。

精神療法の場合、保険で認められているものは、通院・在宅のものと入院でのもの、個人で行うものと集団で行うものとに区分されます。たとえば、通院で、個人で行う精神療法の場合では、精神療法を5分以上30分未満行った場合330点という診療報酬点数が付与されます。診療時間が30分以上になると400点(初診時を除く)と、70点加算されます。これを金額に換算すると、5分行っても30分以上行っても700円しか違わないことになります(1点につき10円換算)。

実際には、不安障害の患者さんに治療として行う精神療法で、5分というわけにはいきません。だからといって、一人の患者さんに30分以上かけていては、待合室がいっぱいになってしまいます。それでは1日に診られる患者さんは少なくなりますし、病院の経営を成り立たせるのも難しくなります。そのため、一般的な外来では、時間のかかる精神療法を取り入れることが難しいという現実があります。


§2 認知行動療法が保険診療されるには

不安障害への理解と治療・不安障害に悩む人々の生活の質を改善することを目指して設立された日本不安障害学会では、不安障害の患者さんが保険診療として認知行動療法を受けられるようにと活動しています。今年の学術大会でも、「不安障害の認知行動療法の保険点数化の必要性」と題したシンポジウムを開催しました。


国立精神・神経医療 研究センター
認知行動療法センター
センター長 大野裕先生


このシンポジウムでは、まず、国立精神・神経医療 研究センター認知行動療法センター・センター長の大野裕先生が、うつ病の治療法として認知療法・認知行動療法が保険診療として認められるまでの経緯を振り返り、不安障害においても認知行動療法を保険診療として認めさせるための条件についての話がありました。

大野先生が7、8年前に、医療機関で精神療法がどの程度行われているかを調べた調査では、「十分行われている」と「ほどほどに行われている医療機関」を合せても約4分の1だったそうです。十分に行われていない理由で多かったものは次の5つです。


・精神療法の研修の機会が不十分
・診療内容に見合う診療報酬が取れない
・時間が取れない
・力量あるスタッフがいない
・精神療法をできるのが保険上医師に限定されている

大野先生はこれらの問題点を踏まえ、うつ病での認知療法・認知行動療法のマニュアルを作成し、多くの医療機関で実施できるようにしました。さらに国内での治療効果を実証し、保険診療として認められることにつなげたそうです。

認知行動療法を保険診療として行うためには「熟練した医師が30分以上行うこと」という条件がありますが、この条件に適合するのは難しく、医師法では、疾患の治療は医師しかできませんが、今後、医師に限らず、医師とともに心理士、看護師、精神保健福祉士などがチームで治療を行った場合でも効果検証を行うことで、診療報酬として認めてもらうよう目指しているそうです。また、同時に専門家を養成するための研修も、新しいシステムが開発され、その効果が検証されているそうです。


§3 不安障害における認知行動療法の有効性


千葉大学大学院医学研究院
子どものこころの発達研究センター
センター長 清水栄司先生

千葉大学大学院医学研究院 子どものこころの発達研究センター・センター長で認知行動生理学を研究している清水栄司先生は、「不安障害と認知行動療法の保険点数化の必要性」について発表されました。不安障害の治療として、海外では、認知行動療法が効果の得られる治療法である可能性が高いという検証結果(エビデンス)が報告されています。薬物療法と認知行動療法の効果を、うつ病(21研究)、不安障害(21研究)で検証した報告[1]によると、うつ病では、薬物療法と認知行動療法は同等の効果でしたが、不安障害では認知行動療法で、より効果が高い傾向がみられたそうです。

日本の成人における不安障害の12ヵ月有病率(12ヵ月でその疾患にかかる人の割合)は、 約5%と高く、うつ病と不安障害の両方を経験する人も少なくありません[2]。だからこそ、不安障害に対しても公的な保険診療として認知行動療法が認められることが求められているのです。保険診療として認められるためには、国内でも不安障害の各疾患に対して、認知行動療法の治療効果があったという事実が必要です。現在、その調査をしているそうです。


滋賀医科大学 地域精神医療学講座
特任助教授 田中恒彦先生


続いて、滋賀医科大学 地域精神医療学講座・特任助教授の田中恒彦先生は、児童青年期の不安障害の患者さんに対する認知行動療法の有効性に関する調査報告をしました。

まず、田中先生は、児童青年期に精神疾患を発症すると、不登校などの問題を引き起こし、問題が長期化したり、疾患の影響が後々まで及んだりする点を指摘し、早期の適切な治療介入が求められると話しました。

今回のシンポジウムでは、滋賀医科大学の思春期外来に通う、パニック障害、社交不安障害、強迫性障害、心的外傷後ストレス障害などの不安障害の患者さん41名に対して行った認知行動療法の結果が報告されました。報告によると、83%以上に効果が認められ、うち62%が面接終了時には寛解(かんかい)*2)に達していたそうです。この結果は、海外で行われた調査結果ともほぼ一致しており、不安障害は、早期に認知行動療法を行うことが、介入方法として必要であると考えられます。


§4 日本の患者さんの困っている状況

同シンポジウムでは、OCDお話会を主宰する有園正俊さんから、OCDの患者さんと家族の現状報告がありました。OCDお話会には、2006年から今までに約500人の患者さんと家族が参加しています。その患者さんの9割は、精神科・心療内科医療機関への受診経験があります。なかには、病院での治療がうまくいったと話す患者さんもいますが、大半はそれまでの治療だけでは、なかなか効果が得られず悩みを抱えています。OCDお話会は東京で開催しているのですが、参加者は関東に限らず、ときには北海道、九州など全国から参加されているそうです。

有園さんは、OCDは悪化すると日常生活に支障をきたし、生活の質(QOL)も低下するため、統合失調症と比べても決してOCDのほうが軽い疾患であるとはいえないとした研究があることを紹介しました。

一般的には薬物療法は約半分の人に効果があるといわれていますが、OCDお話会に参加する人たちは、最初の治療で効果が得られず、さらなる情報を求めている人が多いためか、薬物療法のみで効果がみられた人は、部分的な症状の改善も含めて3分の1前後だったそうです。

そのため、薬物療法のほかにも認知行動療法のような専門的な治療を必要とする声は、とても多いそうです。しかし、認知行動療法のような専門的な治療法をどこに行けば受けられるかわからずに困っている患者さんや家族は少なくありません。OCDお話会は、医療機関の紹介を目的に行っているわけではありませんが、少しでも改善のきっかけや治療情報が得られたらと望みをもって、全国からOCDに悩んでいる方々が参加しているようです。


§5 イギリスとの比較と社会への期待

日本不安障害学会[3]によると、イギリスでは、不安障害とうつ病の患者さんが、精神療法を受けやすい環境をつくるために、7年間で治療者を1 万人養成するという国家プロジェクト(IAPT)が行われています。そこで養成された治療者が行う認知行動療法によって、90 万人いる不安障害とうつ病の患者さんたちのうちの半数の 45 万人が回復すると見込まれているそうです。2008 年からの当初 3 年間で 、363 億円がかけられるほど国家的に重要なプロジェクトなのです。



イギリスでは、医療は国営の医療保険制度によって行われ、国が疾患ごとに治療ガイドラインを作成しています。OCDの治療ガイドラインでは、薬物療法と並んで認知行動療法が第一選択肢として推奨されています。効果が確認された治療法は、国の施策として推進するしくみとなっています。

日本では保険診療として認められない精神療法を行う場合、心理士や医師が、保険外(自由診療)で行うことがあります。その場合、1回の料金が5,000円~10,000円のところが多く、患者さんにとっては何回も通うと経済的な負担が重くなります。

認知行動療法を普及させるためには、国や社会のしくみから変化させなくてはなりません。少子高齢化がますます進む日本では、国の医療費をできるだけ抑制する傾向にあります。しかし、薬物療法に認知行動療法もプラスできれば、これまで改善しなかった患者さんにも改善の可能性が生まれます。そうすれば、OCDを含め不安障害を抱える多くの患者さんの、病気による苦痛や支障が軽減し、社会復帰できる人も増えるのではないでしょうか。労働人口の先細りが懸念される日本社会全体のメリットにもなると考えられます。

ただし、何よりも優先されるべきは、認知行動療法がOCDに効果があると考えられるならば、多くの人が受けやすい社会に一刻も早くする、ということだと思います。


*注釈
*1
不安障害:強迫性障害、パニック障害、社交不安障害、恐怖症、心的外傷後ストレス障害などの不安を伴う精神疾患グループ。次の診断基準(DSM-5)からは、強迫性障害は、不安障害とは別の疾患グループに分類される予定。
*2
寛解:症状による勢いが治まり、一時的もしくは継続的に軽減した状態。


*参考文献
[1]
Roshanaei-Moghaddam B, Pauly MC, Atkins DC, Baldwin SA, Stein MB, Roy-Byrne P. , Relative effects of CBT and pharmacotherapy in depression versus anxiety: is medication somewhat better for depression, and CBT somewhat better for anxiety?, Depress Anxiety. 2011 Jul;28(7):560-7. doi: 10.1002/da.20829. Epub 2011 May 23.
[2]
主任研究者 川上憲人「平成16~18年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)こころの健康についての疫学調査に関する研究」
[3]
日本不安障害学会「不安障害専門医制度の必要性について」平成 24 年 3 月