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OCDコラム

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画像研究でここまでわかった!OCD発症のメカニズム


MRIやPETなど、医療に使われる画像診断技術はどんどん進歩しています。最新の画像技術で脳の中の変化を映し出し、OCDの原因をつきとめようとする研究が進んでいることをご存知でしたか? こうした研究は、OCDは特定部位の脳神経回路の機能障害によるものであるという仮説を裏付ける有力な根拠となっています。

この背景には、画像技術の進歩によって、脳の機能が次第に解明されてきたことがあります。脳のどこの部分の細胞群が、人間のどんな精神活動に関係しているかが、次第にわかってきたのです。現在、強迫観念や強迫行為といったOCDの症状と関係が深いと考えられているのは、「前部帯状回皮質」といわれる部分です。

前部帯状回皮質は、前頭部の深いところにある細胞群です。この部分の神経回路がOCDに関係があるのではないかという仮説は、1990年代末から発表されていました。日本でも、国立病院長崎医療センター精神科や、九州大学大学院医学研究院などいくつかの研究施設が、画像を使ってこの仮説を証明する研究を行っています。

そのひとつ、国立病院長崎医療センター精神科の高橋克朗医師らが2001年に行った研究では、9歳で発病した25歳の男性OCD患者の脳を、治療前と治療後にSPECTで断層撮影しました。SPECTは放射性物質を静脈に注射して撮影し、脳血流の分布状態を画像に表示するもので、脳梗塞の診断によく使われるものです。

患者は治療前、歯磨きや入浴の順序を決めて厳格に守る強迫儀式や、テレビで見た人のものの言い方を真似ずにはいられないなどの強迫行為がありました。治療開始前に撮影されたSPECT画像では、前部帯状回皮質の領域と大脳基底核・視床領域の血流は明らかに高いものでした。その後、SSRI ⇒(SSRIの説明)のフルボキサミンにスルピリドを併用して約6カ月の薬物療法を行った結果、症状は正常範囲まで鎮静しました。そして治療後にSPECTを行ったところ、前部帯状回皮質の血流量は正常化していたのです(図参照)。

この研究は、「前部帯状回の過活動が、患者の強迫症状に伴う強い葛藤の反映であり、もしくは強迫症状の原因そのものである可能性を示唆している」としています。その後の画像研究から、高橋克朗医師らは、「OCD神経ネットワーク仮説」を提出しています。それは、前部帯状回皮質が脳の他の部位からもたらされる情報を統合して、行動の意欲や動機づけ、感情に関する情報処理の優先度を設定する役割を持つのではないかという仮説です。前部帯状回皮質は、多彩な脳の領域と相互に結合しあって、人間の認知や行動にかかわるさまざまな機能や記憶に関与しているというのです(図参照)。

OCDの症状は、前部帯状回皮質の活性が亢進して、適切な刺激がないのにもかかわらず、生得的な情動が活性化することによるもの。生得的な情動とは、本能的な不安や恐怖なども含むものでしょう。適切な神経回路からの抑制がはずれ、反復行動などの生得的な運動プログラムが解放され促進されるのが強迫行動であると、この研究では推測しています。

前部帯状回皮質は、人間が知的な生物として進化する以前から持っていたとされる大脳辺縁系に属しています。大脳辺縁系は「情動脳」ともいい、本能的な情動を担っています。それに対して、前頭部にある大脳皮質の前頭葉は「理性脳」といわれ、人間が進化の過程で発達させてきた脳であり、思考や創造活動など人間の知的な活動を担っています。そんなことも考えると、人間という生き物の進化にともなって、140億以上もある脳神経の細胞が、ちょっとばかり回路を間違えてしまったのがOCDという病気、ということがいえるかもしれませんね。